「資産運用立国」提唱は実質的な年金破綻宣言
さすがに、政府も全世代型社会保障改革だけではうまく行かないと考えたのだろう。最近は「資産運用立国」を掲げ、国民に投資を促し始めた。
家計金融資産の半分を占める預貯金を投資に回るようにし、経済に活力を与えるインベストメントチェーン(投資家の投資対象となる企業が中長期的な価値向上によって利益を拡大し、配当や賃金上昇が最終的に家計に還元される一連の流れ)をつくりあげたいということだが、「公的年金だけでは老後資金は不足するので、足りない分は自助努力で調達してほしい」という本音が透けて見える。「資産運用立国」とは、政府が実質的な年金破綻宣言をしているようなものである。
あえて投資をしない国民が多かったのには、それ相応の事情がある。
とりわけ60代以上にとって投資は負担が大きい。若い頃ならば株価が長期低迷したとしても我慢して値上がりを待つという選択肢も取りやすい。だが、高齢になってからの投資はそうはいかない。元本割れしない金融商品を選んだほうが無難と考える人が多くなるのは自然だ。「資産運用立国」を否定するつもりはないが、日本社会は少し年を取りすぎた。
社会保障制度改革の本筋は経済成長である。制度を切り刻むような“禁じ手”を繰り返すより、人口が減っても日本経済が力強く伸び続けるよう産業の構造改革を進めることのほうが近道である。
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。