中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

【プロ野球】極端な「打低投高」で危惧される“稼げるポジション”の偏重 「このままでは野手を目指す選手がいなくなる」

かつての阪神では、バースが打席に立ったら「なんかやってくれるだろう」という期待感があった(時事通信フォト)

かつての阪神では、バースが打席に立ったら「なんかやってくれるだろう」という期待感があった(時事通信フォト)

投手の年俸はガッツリ上がるだろうけど…

 今のプロ野球の成績を見ると、あまりにも投手が活躍する状況になっているように思えます。過去の三冠王を見ると分かるのですが、阪神のランディー・バースは1985年は打率.350、54本塁打、134打点。1986年は.389、47本塁打、109打点です。この2年間、バースが打席に立ったら「なんかやってくれるだろう」という期待感がありました。しかし、現在の野球を見ていると「なんとか塁に出てくれ」といった状況になっており、正直野球を見ていても、昔ほど面白くないのです。

 一方、今年は防御率0点台、1点台の素晴らしい成績を挙げる投手が出ています。彼らの活躍は称賛に値しますが、これだとオフシーズンの年俸交渉で“投手が有利で打者が不利”になるのではないか、と思うのです。

 たとえば年俸1500万円だった選手が打率.315、25本塁打、90打点をあげた場合、この選手の年俸は以前であれば8000万円ほどにドッカーンと上がることでしょう。しかし、今年のような打低投高だと、ほとんどの野手がそのような状況になるのは見込めない。一方、防御率0点台、1点台の投手は2000万円の年俸が6000万円(あるいはそれ以上)になったりもするでしょう。

 こうなると、子供たちが野手としてプロ野球を目指すモチベーションが下がってしまう懸念が出てきます。このままだと、みんな“稼げるポジション”である投手を目指してしまい、それが野球界全体の弱体化に繋がってしまうのではないでしょうか。巷では「ボールに問題がある(“飛ばないボール”になっている)」みたいなことも言われていますが、やはりこれだけ打低投高になると、何らかの対策は必要だと感じます。

 別にかつての甲子園球場の「ラッキーゾーン」を復活させろ、といったことを言いたいのではなく、たとえば審判部は「もう少しストライクゾーンについて打者に有利なようにしてもらえませんか?」というようなことも考えてほしい。AIが完璧に判断するのではなく、人間が見ているわけですが、昨今の審判は「投手寄りの判定をしているんじゃないの?(ストライクゾーンが広いんじゃないの?)」と勘ぐってしまうんです。

 みんながみんな「打者としてのキャリアを選ぶのを諦める」という状況が続くと球界は衰退します。一般の労働者にしても、常に花形職種というものは存在します。1980年代は営業職が花形でした。現在はコンサルやマーケッターが多額のカネを稼げるようになっています。しかし、基本は営業あっての企業経営だと思います。

 今のプロ野球を見ていると「打者を蔑ろにするな。本当に大事な職種をわかってる?」と思ってしまうのです。野球は投手だけでは成立しません。打者あってのものです。ここまで極端な打低投高のままだと、球界が衰退してしまう可能性を私は危惧しております。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。

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