米国の利下げで投機筋が急激なドル安を仕掛けることがあれば…
2022年における米中の経常収支をみると、中国は4019億ドルの黒字で、世界最大の黒字国だが、米国は9438億ドルの赤字で、世界最大の赤字国だ(UNCTAD)。米国の赤字額は突出して大きく、ワースト2位のイギリスは1214億ドルの赤字でしかない。
米国は世界各国から流れ込む巨額な投資資金があるから、その一部を再度海外に投資させつつ、多額の貿易赤字を発生させているともいえる。2022年における米国の対外資産残高は31兆6318億ドルで世界最大だが、一方で対外負債残高は47兆8041億ドルもある(IMF)。後者がダントツの世界最大規模であることから、差し引き対外純資産は16兆1723億ドルの赤字と、極端に大きな赤字規模となっている。
FRB(米連邦準備制度理事会)は9月17、18日、金融政策を決める会合を開くが、そこで2020年3月以来となる利下げが決定されるだろう。株式市場にとって、利下げは安全資産の魅力を低下させ、リスク資産への資金移動を促す大きな動機となるだけに、一般には好材料だ。しかし、同時に為替に対しては逆の動きとなり、通貨安を招く要因の一つとなる。投機筋が急激なドル安を仕掛けるようなことになれば、海外から米国に流れ込んでいた資金の大規模な逆流が起こりかねず、そうなれば、米国側が海外に投資していた資金を回収する動きが生まれる。金融は信用が何よりも重要だ。ドルの価値の急変動は、世界同時株安を発生させかねない。
モノの世界では既に中国が米国を追い越すまでに成長しているが、新エネルギー、電気自動車といった先端分野でさえも中国が先行するようになってきた。一方、中国共産党は米国の要求をほぼ無視し、金融市場の開放を漸進的にしか進めていない。その結果、中国金融市場において、米国による金融支配は及んでいない。米国としてはこれ以上、モノの分野で中国の支配力が高まるのを阻止したいところだが、しかし、それを性急に進めれば、中国が非米同盟国を巻き込んでドル離れを加速させかねない。
トランプ前大統領の登場以来、民主党の対応を含め、米国の政治体制、民主主義体制に綻びがみられると考えるグローバル投資家が今以上に増え、更にドルの絶対神話に疑いを持つ投資家が増えれば、大きな資金の流れがクリティカルに変わる可能性もありそうだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。