人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第43回は、「世界同時株安」の可能性について。
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コロナ禍にウクライナ危機が重なってもなお米国株を中心に世界の株式市場は好調が続いてきた。だが、ここにきていよいよ変調をきたしているようだ。
なにより、世界経済を牽引してきた米国の景気に悪材料が目立ち始めている。インフレ退治のためにFRB(米連邦制度準備理事会)が大幅な金融引き締めを続けても、8月の米消費者物価指数(CPI)は事前予想を上回る8.3%と、依然高止まり。
市中金利の上昇が続き、30年ものの住宅ローン金利は6%を超え、3%弱だった1年前の倍以上となっている。返済金利がこれだけ急激に上昇してしまうと、さすがに不動産には手を出しづらくなり、米国の不動産バブルがはじける可能性も視野に入ってくる。
景気悪化懸念の高まりから、株価は下落基調が目立つようになった。高値から20%超の下落を見せると、株価は「弱気相場(ベアマーケット)」入りしたと定義づけられるが、すでにS&P500は6月に弱気相場入りし、年初の4600ポイント超から3600ポイント台まで続落し、9月26日には年初来安値を更新。節目の3600ポイントを割り込んでくるようなら下値メドがなくなるため、警戒が必要だ。
ハイテク企業の多いNASDAQもすでに高値から20%下落しているほか、9月26日にはニューヨークダウも1月の史上最高値から20%超の下落となり、米国を代表する株価指数が揃って弱気相場入りしているのだ。
これは市場参加者の心理を暗転させるには十分な材料といえるだろう。行動経済学でいえば、これまで株式市場では“株価は下がってもまた上がる”という「コントロール・イリュージョン」が働いてきた。だから、株価が下がったところで押し目買いをすればリバウンドが狙えるという期待感が持てた。