田代尚機のチャイナ・リサーチ

米国の利下げがもたらす「ドル安リスク」 ドルの価値の急変動が世界同時株安につながる可能性も

米FRBのパウエル議長(AFP=時事)

米FRBのパウエル議長(AFP=時事)

 米国経済の強さはどこにあるのだろうか。2022年における名目GDP(国連)について、中国を100とすれば米国は143であり、依然として中国を大きくリードしている。一方、鉄道貨物輸送量(OECD)では米国は74、銀行融資残高(IMF)では50、電力消費量(EIA)では48に過ぎない。

 実はこれらの3指標は、中国の李克強・前首相が2007年、遼寧省書記であった当時、遼寧省の経済状況を分析する上で非常に有用だと指摘した指標である。かつて一部の欧米のエコノミストたちは、こられの3指標の動きをみて中国のGDP統計の信憑性を疑うような見方をした者もいたが、今ではこれらの指標を使って逆に米国経済が過大評価されているのではないかというような見方をする中国の投資家さえいる。

 ただ、これは、米国のGDP統計が経済の実態を正しく表していないということではなく、経済構造に大きな違いがあるために生じる現象であろう。中国の名目GDPに占める製造業の割合は27.5%(2021年、中国統計年鑑2023)あるのに対して、米国の製造業比率は10.3%(2022年、国連)に過ぎない。一方、米国の金融、不動産などは20.7%あるのに対して、中国の金融は7.7%、不動産は6.1%しかない。相対的に中国は実物中心の経済構造で、米国はサービス中心といった大きな違いがある。

 法務、会計などのビジネスサービスでも、通信、教育、娯楽サービスにしても米国は高い競争力を持っているが、そうしたサービス産業の中でも他国をより圧倒しているのが金融だ。グローバルで事業を展開する欧米系の投資銀行、資産運用会社の収益規模は非欧米系を大きく凌駕している。米国には世界最大の株式、債券市場があり、金融商品のバリュエーションは群を抜いている。また、ドルは基軸通貨として、その流通量、信用力はずば抜けている。いわゆるグローバルな金融支配を通じて米国は世界最大の経済大国を維持している。

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