新設住宅の着工戸数が減少を続けている。中でも「持ち家」の落ち込みが目立っているといい、国土交通省の統計によれば、2022年、2023年と2年連続で前年比11%台の減少となった。その一方で、全国的に増加し続けているのが「空き家」だ。これらの住宅事情は何を意味しているのか? 人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏が解説する【前後編の後編。前編を読む】。
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一般的に40代までの年齢層は、結婚や出産・子育てをきっかけとして持ち家を取得する人が多いが、その際に、頼りにしたいのが親からの金銭支援だ。しかしながら、「人生100年」と言われるほどに寿命が延び、親は自らの蓄えを自身の老後生活に充てざるを得なくなっている。公的年金は目減りが想定され、しかも政府は「全世代型社会保障」として医療費や介護費の自己負担を増やそうとしているためだ。
今後高齢者となる世代は、現役時代の賃金上昇が抑え込まれてきたため、現在高齢者となっている世代に比べて退職金額も年金受給額も少ないことが予想される。
高齢者を取り巻く経済環境が厳しさを増す中で、子どもの住宅取得資金を気前よくバックアップしようものなら、自分自身が「老後破産」に陥りかねない。親の資金援助を当て込めない30~40代の中には住宅取得そのものを諦める人も出てくるだろう。
むろん、最初から親の資金援助を当て込まず、借入倍率を引き上げてでも希望する住宅を取得する人も少なからずいる。内閣府によれば、50代以下の「二人以上世帯」においては世帯主本人の収入の増加はさほどみられないが、世帯収入は共働きの広がりを背景として上昇している。
だが、親の資金援助を当て込めなくなると、自分たちの支払い能力に合った価格の物件を選ぶ人が増えるのも現実だ。新築志向の人は価格の低い郊外などで物件を探すこととなる。
都市の郊外では路線バスの縮小が始まっていることでも分かるように、今後はさまざまな生活必需サービスの撤退が予想されている。にもかかわらず、いまだ新築住宅の開発が続く理由の1つがここにある。
税収が減っていく人口減少社会では行政費用など社会コストを抑制するためコンパクトな街づくりが求められるが、逆行する動きだ。少子高齢化を伴いながら進む人口減少は、さまざまな形で新設住宅の着工戸数の減少に影響を及ぼしているのである。
人口減少に伴う住宅需要の先細りが避けられない中で、世帯構成の変化が需要減少のスピードを速めているのに、新築はかつてに比べれば減ったとはいえゼロとはならないので毎年積み上がる。このままでは空き家が増大し続ける。