日本人はやればできる
そして、日本が衰退している最大にして最も本質的な原因は「教育」だ。
文部科学省は旧態依然の学習指導要領によって、金太郎飴のように均質な人材が必要だった「第2の波」=工業化社会時代の教育を続けている。そうした古い教育を受けた日本の若者たちは、ベトナムやバングラデシュなど労働コストが安い途上国の労働者と工業品で競争することになる。だから賃金が上がらないのだ。
つまり、今後も時代遅れの文科省教育を続けていたら、日本人は国際競争力が低下して貧しくなる一方であり、「第4の波」=AI(人工知能)・スマホ革命時代の教育にシフトしなければ、この国が再び浮揚することはないのである。
逆に言えば、教育改革を断行することで、今の衰退を食い止めることは可能だ。もともと日本人の能力が劣っているわけではないからである。実際、文科省教育の埒外にある漫画、アニメ、ゲーム、スポーツ、音楽などの業界では、日本人が世界中で大活躍している。
たとえば、スポーツは大リーグの大谷翔平選手やゴルフの松山英樹選手をはじめ、パリ五輪で金メダルを獲得したブレイキンのAMI(湯浅亜実)選手、スケートボードの堀米雄斗選手や吉沢恋選手らが右代表だ。
音楽は、世界最高峰のオーケストラ「ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」の第1コンサート・マスターの樫本大進氏、首席ヴィオラ奏者の清水直子氏ら超一流の人材を輩出している。
日本人はやればできるのだ。目標を「見える化」すれば貪欲に努力して成長するのだ。それを妨げているのが文科省教育なのである。
これら日本の将来を左右する重大な問題について何も政策を提言していない今回の候補者は、立憲民主党も含めて全員失格である。
ならばどうすればよいのかと問われると暗澹とするしかないが、とりあえず次期首相の“覚醒”に一縷の望みを託し、本連載では大前流日本改革の提言を粛々と続けていくことにしよう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年10月4日号