9人もの候補者が乱立した自民党総裁選(9月27日開票)。混戦から抜け出そうとするからか、これまでタブー視されていたような政策が候補者から飛び出している。小泉進次郎氏が口火を切った「解雇規制見直し」もその一つだ。
小泉氏は、9月6日の総裁選出馬会見で、「賃上げ、人手不足、正規非正規格差を同時に解決するため、労働市場改革の本丸、解雇規制を見直します」と明言した。この発言に対し、SNSでは「会社が自由にクビを切れるようにするのか」「日本を破壊する政策だ」「労働者の敵」といった意見が飛び交い、批判一色に染まった。9月14日に開かれた立候補者討論会でも、高市早苗氏が「解雇規制の見直しに私は反対だ」と述べるなど、小泉・河野太郎両氏以外のほとんどの候補者が反対の姿勢を示した。
しかし、日経新聞の世論調査によると、「現状の規制は厳しいので緩和すべきだ」が45%だったのに対し、「現状のままでよい」は43%で、解雇規制緩和に賛成する人が上回るという意外な結果が出ている(2024年9月16日付)。
同日付の朝日新聞も同様の(「会社による社員の解雇が今よりもしやすくなるように、政府が規制を見直すこと」への賛否を尋ねた)世論調査結果を報じているが、こちらは賛成37%、反対48%で反対する人の方が多かった。しかし、若年層ほど賛成の割合が高い傾向があり、18〜29歳は賛成61%、反対30%だったという。
この調査結果は、解雇規制緩和に反対している人からすると、「正社員が解雇されやすくなる政策になぜ賛成する人がいるのか」と理解しがたいのではないか。
小泉氏は「見直し」、河野氏は「緩和」
その謎を解くため、人事コンサルタントの城繁幸氏に、解雇規制緩和(または見直し)とはどんな政策なのかを聞いた。
「小泉氏は『見直し』、河野氏は『緩和』と述べていて、政策の中身が異なるので、分けて考える必要があります。小泉氏はリスキリングと再就職支援で社内失業を減らすと主張し、解雇できるようにするのかについては明言していません。しかし、リスキリングや再就職の訓練というのは個人でやるもので、国がルールをつくり企業が負担すべきか疑問はあります。河野氏との違いを出そうとしたのかもしれませんが、歯切れが悪く、急な総裁選出馬で準備不足の感が否めません。
一方、河野氏は『金銭的解雇』と明言しています。これは退職金に上乗せした金額を払うことで解雇を可能にする制度です。経済学者などの専門家の間では20年来、議論されていて、解雇規制緩和と言えば、一般に金銭的解雇の実現を意味します」