人生後半戦の「住まい」をどうするか。多くの人が仕事を完全リタイアし、余暇の時間も増える70代。現役時代を過ごした都市圏を離れ、平穏な田舎でのんびり暮らすことを選択できる年代となる。
だが、この年代の「地方移住」は想定外の悲劇を生みやすい。70代で都心から郊外に移り住んだAさんが言う。
「田舎暮らしに憧れて夫婦で移住したが、思ってもみなかったことばかりでした。都心のように安いスーパーやディスカウントショップがないから生活費が都心より高くついたし、車がないと生活できないからガソリン代もかかる。病院までの距離も遠くなりました。静かに暮らせると思っていたら、人間関係が都市部よりも濃厚で気が休まらず、息苦しい生活が続いています」
現在、地方活性化のためUターンやIターンなどを奨励する自治体が多く、田舎暮らしこそ“理想の老後”とのイメージも根強いが、住宅ジャーナリストの中島早苗氏が警鐘を鳴らす。
「例えば、ゴミ出しなどのローカルルールひとつでも注意が必要です。一般的にゴミの回収作業は自治体が担いますが、集積所の管理は自治会など地域の人々が行なうことが多く、ゴミ出しルールは地域によって千差万別。集積所まで自宅から徒歩で10分ほどかかり、雨の日や冬の寒い朝も往復20分かけているようなケースもあります。都内では回収してくれる粗大ごみも、移住先によっては集積所まで自分の車で運ばなければなりません」
地域に根を張る自治会の存在が、思わぬ出費につながることもあったという。
「年間数千円の年会費に加えて、入会金として約20万円が必要になった事例があります。自治会の入会は義務ではないものの、会員にならないとゴミ集積所が利用できず、揉め事になる例もある。以前からの地域住民が全員入会していると、“新参者”の移住者が入会を拒否しにくい。こうした独自のルールやしきたりに馴染めず、せっかく地方に購入した自宅を売却して都会に再び引っ越した人もいる」(中島氏)