経営コンサルタントの大前研一氏は「日本衰退の本質的な原因は文部科学省による旧態依然とした教育にある」と指摘している。中でも“時代遅れの象徴”なのが、「○×」で答える設問が多い「全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)」だという。大前氏が、日本の教育の問題点について解説する。
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私が本連載で繰り返し述べているように、21世紀は「答えがない」時代であり、○×では答えられない問題ばかりだ。その混沌とした世界で生きていくための力を身につけることが、北欧をはじめとする海外の現代教育の主流になっている。
北欧型の教育は「答えがない」という前提で、学習指導要領を撤廃した。先生は教師(ティーチャー)として児童生徒に答えを教えるのではなく、促進者(ファシリテーター)として答えを見つけさせるための質問をする。そして児童生徒がディスカッションしながら答えを模索していくのだ。
アメリカの場合は、もともと統一された学習指導要領がない。学校が独自の教育方針を打ち出し、それを児童生徒や親が選ぶという形態だ。
北欧やアメリカでは、21世紀の子供たちに最も大事なのは「inquisitive(好奇心旺盛)」な姿勢(マインド)だとされている。そういった世界的な趨勢の中で、日本の文科省は逆に「inquis-itive」マインドを阻害するような学習指導要領に基づいた○×式の教育を頑なに続けているのだ。
ちなみに、今回のテストでは、記述式の問題で正解を導けないまでも空欄にしない児童生徒が増えて、「無解答率」が以前より低下したことをもって「改善の兆し」と報じられている。だが、それは「とりあえず何でもいいから書いてこい」という“受験指導の成果”にすぎないのではないか。
その一方、授業でパソコンやタブレットなどのICT機器を活用している学校の児童生徒ほど正答率が高かったという。それは考えてみれば当たり前の話で、「答えがある問題」を出しているのだから、ネット検索で答えを探すことに慣れている児童生徒のほうが有利になるに決まっている。
しかし、今は「答えがある問題」は、生成AIや検索ツールを使えばすぐに答えが見つかる時代である。そういう時代に、昔ながらの○×式テストを繰り返しても、全く意味がない。