生活習慣病と聞いてまず思い浮かぶのは「肥満」だろう。メタボとその予備軍が2000万人にのぼる日本人にとって、肥満のメカニズムを知ることは健康で充実した日々を送るために欠かせない。シリーズ「名医が教える生活習慣病対策」、九州大学大学院医学研究院病態制御内科学・小川佳宏主幹教授に話を聞いた。【肥満と生活習慣病の関係・前編】
見た目は肥満でも病気でないケースも
生活習慣病の1つとして肥満が挙げられます。肥満とは食事で摂取したエネルギーの過剰分が中性脂肪として脂肪細胞に蓄積された状態のことですが、脂肪が溜まったというだけで、はたして病気といえるのでしょうか。
人類は本当に長い間飢餓と闘ってきました。飢餓になった時に備えて、身体に脂肪を蓄えておくなど様々な対策をとって生き延びようとしてきました。産業革命や農業技術の進歩などで、先進国では食料事情が改善しました。日本においても戦争を経て驚異的な経済発展を遂げ1970年頃から飽食の時代を迎えています。日本人がおなか一杯に食べられるようになったのはこの40年程のこと。細胞レベルでは飢餓を念頭のおいた身体の構造はほとんど変化していません。つまり生活習慣の変化や飽食などの環境の変化に、人間の細胞がマッチしていないために起こっているのが肥満なのです。
太っているだけでは病気とはいえません。例えばお相撲さんの見た目は太っていますが、血液検査など様々な検査をしても異常な数値を示さない力士はたくさんいます。見た目は肥満であっても病気ではないのです。一方で肥満に伴い高血圧や脂質異常、高血糖、あるいは合併症発症リスクが高くなっている方もいます。こうした方々は肥満症という病気として診断されます。