キャリア

良好なコミュニケーションが生まれる「話しやすい」職場の作り方 1フロアでマネジャーを1か所にまとめる「分けない」オフィスの仕掛け

あえて「分けない」とうまくいく

 そうは言っても、急にワンフロアにしたり、床に穴を開けたりするのは現実的ではないだろう。そのため、コクヨが実際に試みた別の「分け方」もご紹介しよう。「役員や部長などの席を1箇所にまとめる」という方法だ。

 一般的に、役員は役員フロアや個室に分かれているものだし、部長は各セクションに席があるものだ。この分け方をやめて、大テーブルを作って1箇所にまとめるのだ。

 他部門とのコミュニケーションを活性化するためには、「マネジャー同士のコミュニケーション」が極めて大切だ。マネジャー同士の仲が悪いことで、部門同士の関係性にヒビが入ることは珍しくない。

 そこで、マネジャーを1箇所にまとめることで「コミュニケーションしやすい」環境を作り、情報共有を徹底させたのだ。その場で重要案件が次々共有されていくので、部門同士の連携や意思決定のスピードが上がった。

 また、これにはもうひとつメリットがあった。部下は報告、連絡、相談のために上司のところにやってくる。これがセクションごとに行われているとマネジャー同士は情報共有ができないが、マネジャーが1箇所に集まっているため、それらの声が否応無しに聞こえてくる。これによって「風通しのよい」風土を作ることができた。

 おり入っての相談がある場合は、別のスペースで行えばいいわけだ。

「まとめる」のはマネジャーだけではない。コーヒーコーナー、コピーコーナー、トイレ、喫煙所などをあちこちに分散させずにまとめることで、予期せぬコミュニケーションが生まれることがある。

 ちなみに『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』などのヒット作を手掛けるピクサー・アニメーション・スタジオの本社オフィスは、入口を入ってすぐのところに社員が集まれるアトリウムがある。スティーブ・ジョブズが「偶然の出会い」や「予期せぬコラボレーション」を期待して作ったそうだ。

 私が今通っているコクヨの品川のオフィスにも、社員と社外の人が交わる場がある。建物の一部を開放して社外の人でも自由に入れるショップやカフェ、中庭などがあり、品川駅近辺に住んでいる人が子供をつれてショップでお絵描きをしていたりする。

 普段はお客様と触れ合うことがない、文房具の開発メンバーたちが社外の人と気軽に「会話しやすい」仕掛けになっているのだ。

 これらは様々なシーンで応用ができる。

 家庭で一家団欒を増やしたいなら「リビング」を広くし、個人の趣味や独立性を重んじるならば「個室」を広くする。

 最近では、学校の教室や職員室の「壁」をなくして、クラス以外の交流を増やしたり、先生と生徒が気軽に相談しやすくしたりする事例も増えている。

 こういった事例を知っておくことで、既成概念にとらわれない「空間のあり方」を考えられるようになる。そのためには、普段から「人の動き」を注意深く観察する癖をつけておくといいだろう。

【プロフィール】
下地寛也(しもじ・かんや)/コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタント、エスケイブレイン代表。1969年神戸市生まれ。1992年文房具・オフィス家具メーカーのコクヨに入社。顧客向け研修サービス、働き方改革コンサルティングサービスの企画など数多くのプロジェクトマネジメント業務に従事。未来の働き方を研究するワークスタイル研究所の所長などを経て、現在はコーポレートコミュニケーション室の室長としてコクヨグループのブランド戦略や組織風土改革の推進に取り組んでいる。同時に複業ワーカー(エスケイブレイン代表)としてのビジネススキルに関するセミナーや講演、YouTube動画配信などの活動も積極的に行っている。著書に『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)、『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)、『一発OKが出る資料 簡単につくるコツ』(三笠書房)などがある。

『「しやすい」の作り方』(サンマーク出版)より一部抜粋して再構成

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