欧州最大の自動車メーカーであるドイツのフォルクスワーゲン(VW)グループが、収益性改善のためにドイツ国内の工場を閉鎖して最大3万人の人員削減を行ない、中国でもリストラに踏み切る方針と報じられた。
その背景のひとつにはEV(電気自動車)の販売減速が挙げられる。市場関係者の間では「EVブーム失速、HV(ハイブリッド)車復権」も囁かれる中、これからの自動車産業はどうなっていくのか。経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。
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2026年のEV世界販売台数を150万台にするという目標を掲げていたトヨタ自動車は、生産台数を100万台程度に縮小する見通しだが、結果的にEV化に出遅れていたことが“怪我の功名”となり、EV失速の影響を欧米メーカーほどには受けずに済んだ。
いまEV市場ではBYD(比亜迪)などの中国勢が低価格を武器に台頭し、先行していたテスラも苦戦を強いられているが、自動運転でも中国企業が世界をリードしている。
報道によれば、すでに中国の各都市では完全自動運転の無人タクシー(ロボタクシー)が急速に普及している。たとえば、いち早く業界に参入したIT大手「バイドゥ(百度)」は北京や武漢など11都市でサービスを展開し、無人タクシー側が原因の事故は「ゼロ」だそうである。
一方、アメリカのグーグルは2009年から自動運転開発をスタートし、開発部門を分社化した「ウェイモ」が2017年から公道実験を行なっているが、アメリカ運輸省道路交通安全局(NHTSA)によると、2021年7月から1年間に62件の事故を起こしていた。テスラの自動運転支援システムでも、これまでに少なくとも13件の死亡事故が発生しているという。
バイドゥの無人タクシー側が原因の事故ゼロというのは俄には信じ難いが、開発優先で市街地を無人タクシーが走り回っている中国の自動運転技術がデータを蓄積し、着々と進化しているのは間違いないだろう。
かつての中国車は性能、安全性、デザインなどすべての面で日本車や欧米車に劣っていたが、エンジン車よりパワートレインがシンプルなEVで性能に差がなくなり、安全性も都市部で自動運転を強行できるほどに向上した。さらに、デザインは世界的に高い評価を受けているイタリアなどの自動車デザイナーを起用し、以前より格段にスタイリッシュになった。結果、2023年の中国の自動車輸出台数は491万台に達し、日本の442万台を抜いて初めて世界1位になった。