ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
EVブームの失速に伴い、おそらく今後はEVよりもHV(ハイブリッド車)が優位になるだろう。しかし、その時代が続くのは長くて10年くらいだと思う。
なぜなら、いま世界的にはグリッド(送電網)に接続できず、運転を開始できない“持ち腐れ”のソーラー(太陽光)発電や風力発電の再生可能エネルギーが膨大に余っているからだ。その発電量は米欧だけで推計「原子力発電所約480基分」に相当するという(日本経済新聞9月8日付)。それが有効利用されるようになり、再生可能エネルギーの発電量も増大して世界各国の電力構成に占める比率が7~8割になったら、「脱炭素社会」の実現に向けて再びEVに回帰するだろう。
さらに、自動運転も中国での社会実装が進んで精度が上がれば、以後はますます中国メーカーが市場を席巻することになる。
そういう状況の中で、日本の自動車産業はどのように生き残っていくか? 当面はHVで稼ぎ、その間にEVや自動運転で先行している中国企業と提携したり、技術や実験データを買収したりすればよい。
たとえば、すでにトヨタは中国の自動運転ベンチャー「モメンタ(北京初速度科技)」に出資して共同開発を進めており、高度運転支援システムを搭載した低価格EVを2025年に発売する予定と報じられている。
その一方では静岡県裾野市の工場跡地に自動運転などの技術開発を行なう実証都市「ウーブン・シティ」を建設しているが、箱庭のような計画された街では想定外の事故に対するリアルな実験はできないからさっさと中止して、その分の資金を中国企業への投資やM&Aに振り向けるべきだろう。自動車産業をめぐる環境が激変した今、自動車メーカーは20年後を見据えた長期戦略が必要なのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2024年11月1日号