金融市場が大きく調整するなら金への資金逃避も
本来、商品の価格は、需給によって決まるが、金については、実需とは必ずしも結びつかない金融取引によって決定される。
金の現物取引、先物取引ともに世界各国に市場があるが、現物取引ではロンドン、先物ではニューヨークの取引量が多く、両市場における価格形成がグローバル市場の価格形成に大きな影響を与えるといった構造となっている。金実物の値付けは両市場によって事実上決定される仕組みと言えよう。
ロンドンの地金、ニューヨークの先物における市場参加者は欧米の貴金属業者、金融機関が中心であり、彼らの投資行動は、インフレ、金利、地政学リスクなどによって大きく左右される。
IMFは10月28日、世界経済見通しを発表した。2023年の世界全体のGDPは3.3%成長であったが、2024年、2025年の見通しはいずれも3.2%成長とやや鈍化する予想だ。政策面での不透明感が高い中で、見通しのリスクは下振れ方向に傾いているとしている。世界全体の総合物価上昇率は、2023年の6.7%から2024年は5.8%、2025年は4.3%へと低下すると予想している。景気回復力の弱さやインフレ率低下による金利低下は金価格にとって上昇要因となる。
8月上旬に金融市場におけるボラティリティが急上昇したが、今後、金融市場が更に大きく調整するようなことにでもなれば、発展途上国において、資本流出、債務ストレスが誘発され、経済に大きなダメージを与えてしまう。それが金融市場に伝播し、スパイラルに市場が崩れるようなことが起こるとすれば、金への資金逃避が起きるかもしれない。中東情勢の悪化は地政学リスクを高め、こちらも金価格を引き上げる方向に働く。実物を含め、金商品価格の先高観が強いようにも思う。
ただ、気になる点もある。中国による影響だ。
金の保有量では米国が圧倒的に多く、中国はドイツ、イタリア、フランス、ロシアに次いで世界6位に過ぎないが、金の採掘量では世界最大だ。また、中国黄金協会によれば、2023年における中国の金消費量は1089.69トンで世界全体の63.3%を占め、11年連続で世界最大である。価格形成において、金融市場による支配力が強いとはいえ、中長期では実需の影響を無視できない。中国の需要低迷は気になるところだ。
中国には金関連の取引市場として、上海黄金取引所、上海先物取引所、商業銀行店頭取引の3つがあるが、全体の取引規模は米国、英国に次ぎ世界3位である。ここ数年、中国の取引規模は急拡大しており、今後、中国国内市場で形成される価格が国際市場にも影響を及ぼしかねない状況だ。
中国の市場開放は進んでおらず、国内の金融機関が支配力を有する市場である。中国の金融機関の投資評価は平時であれば、欧米の金融機関と変わらないが、平時でないと当局が判断した場合、国家の方針に従って売買スタンスが大きな影響を受ける。つまり、中国当局が国際的な金価格に対して影響力を持つかもしれない。
グローバルな金関連商品の価格見通しに中国要因は無視できない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。