糖尿病と歯周病の治療の併用が効果的
糖尿病は全身の血管を傷つける病気です。細い血管を障害することで起こるのが糖尿病性神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症の3大合併症です。近年は細い血管よりも動脈硬化によって太い血管が障害され、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる病気を発症するといわれています。
実は、これらの5つの合併症に加えて、歯周病が糖尿病の「第6の合併症」といわれはじめています。歯周病原菌は脆弱な細胞から体内に入り、脳血管疾患、誤嚥性肺炎、バージャー病などの発症の原因になります。さらに最近は、腸内に侵入して腸内フローラのバランスを崩し、ディスバイオーシスの状態にしていることもわかってきました。腸内フローラは免疫などにも大きく関わっているので、歯周病による炎症と歯周病原菌がヒトの免疫力低下を招いているのかもしれません。
歯周病と糖尿病との関係について、日本歯周病学会が2009年に「糖尿病患者に対する歯周病治療ガイドライン」の初版を刊行、2023年に改訂3版が出ました。 それによると、糖尿病患者の歯周病発症率は健康な人と比べて2.6倍も高く、糖尿病治療に加えて歯周病治療を併用すれば糖尿病が改善することが、具体的な臨床データにより明らかになりました。また、歯周病は細菌感染のため、抗菌薬の併用が有効ではないかと考えられていましたが、目を見張るほどの効果は得られなかったという結果となり、その点については低い推奨に留められました。
歯周病治療によって糖尿病が改善される効果については、ヘモグロビンA1cの検査値で平均0.4%と言われています。また、糖尿病の罹患期間と歯周病の関係を調べた研究では、糖尿病の罹患期間が5年を超えると一層歯周病が悪化することが示されました。
さらに糖尿病で重篤な歯周炎にかかっている患者は、糖尿病や歯周炎に罹患していない人に比べて血管の厚みが増して動脈硬化が進んでいることが、頸動脈超音波検査でわかり、虚血性心疾患の発症リスクが高まることも報告されています。また、重症の歯周炎を併発している糖尿病患者は、虚血性心疾患だけでなく糖尿病性腎症の罹患率が高くなり、人工透析や死亡率が有意に高いという報告もあります。 歯周病と糖尿病をいかに治療していくかが、命を保つポイントといえるかもしれません。
【プロフィール】
小方頼昌(おがた・よりまさ)/1984年日本大学松戸歯学部卒業。1988年東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了。1992年よりカナダトロント大学歯学部に留学、歯周生理学を研究。日本大学松戸歯学部歯周病学講座教授などを経て、2020年同大学松戸歯学部第13代学部長に就任(~2023年)。現在は同大学歯学部歯周治療学講座教授。
取材・文/岩城レイ子