金正恩総書記にとっては「金を産む鶏」
一方、外貨が欲しい北朝鮮指導部にとっても、この“ピンハネシステム”は実に旨味がある。ロシアの申し出に北朝鮮側は快諾したという。北朝鮮軍は10月、軍人の平均給与をこれまでの100~300ウォン(約17~51円)から一気に10倍の1000~3000ウォン(約170~510円)に増額したとされるが、日朝情報筋によれば、これはロシア派兵を織り込んだものだという。
前線に送られた兵士が稼いだ外貨で軍全体の待遇改善を図ったという見方もできるが、兵士一人あたりの月給が500円ほど上がったとしても、100万人で総額5億円程度だ。一方、ロシア派兵は最大1万2000人と指摘されており、ロシアから受け取る“人材派遣料”は月額36億円以上になる。兵士の待遇改善分を差し引いても約86%をピンハネしていることになる。派遣兵士の立場から見れば、自分たちが命がけで戦う対価として支払われる金額の、実に99.8%をピンハネされたに等しい。この仕組みが終戦まで続くのだから、北朝鮮にとってはウクライナ戦争特需である。
こんなひどい仕組みがあっても、北朝鮮の若者にとっては「給料10倍」は羨望の的のようだ。10月16日付の朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は、同月14、15日の2日間で140万人の若者が軍への入隊や復隊を志願したと伝えている。これを裏付ける情報はないものの、同紙がわざわざこれを報じるのも、「今は軍隊が儲かりますよ」と国民に宣伝するためだろう。金正恩・総書記にとっては「金を産む鶏」のような兵士たちもしょせん消耗品でしかなく、「代わりはいくらでもいる」と高をくくっているに違いない。
ロシア派兵について、北朝鮮外務省のロシア担当次官は10月25日、「国際法上の規範に符合する行動だ」と述べて、初めて派兵を認めた。また、ある米政府高官は10月中に少なくとも北朝鮮兵3000人がロシア東部に派遣されて戦闘訓練などを受けたとし、11月10日には戦闘に参加したという。たとえ志願兵だとしても、金のために命を落とす北朝鮮の若者たちには同情を禁じ得ない。