トランプ氏が勝利した米大統領選後の最大の懸念が石破茂・首相の「外交力」だ。自民党の歴代首相を見ると、小泉純一郎─ブッシュ、安倍晋三─トランプ、岸田文雄─バイデンなど、時の米国大統領と個人的に良好な関係を築いてきた首相ほど日米関係は安定した。
外務省OBが対米外交の要諦をこう語る。
「超大国である米国との外交で重要なのは、虎の尾を踏まないことです。それに注意すれば他は交渉の余地がある。田中角栄・首相は独自の資源外交で米国を怒らせ、東アジア共同体構想を掲げた鳩山由紀夫・首相は『共同体に米国は含まない』という姿勢を取って勘気を蒙った。
小泉首相がブッシュの戦争で自衛隊をイラクに派遣し、安倍首相がトランプに言われてF35戦闘機を100機も追加購入、岸田首相がバイデンに防衛費の倍増を約束したのも、『この要求を拒否したら虎の尾を踏んでしまう』と判断したからです」
だが、その点で石破首相には不安がある。政治評論家・有馬晴海氏の指摘だ。
「石破首相の専門分野は農政と国防で国内派です。外交は経験がものを言う。安倍首相は在任期間が長く、外交経験を積んだことで各国首脳から一目置かれるほどの発言力を得たし、岸田首相はその安倍政権で長く外相を務めたキャリアがあったから、バイデン大統領と親交を結ぶことができた。石破首相にはそうした下地が全くない」
就任したばかりの首相に外交経験がないのは仕方がないが、懸念はそれだけではない。
「石破首相が提唱するアジア版NATO構想は米中の両大国に警戒された。米国務省高官は『時期尚早』と一顧だにしなかったし、中国国防部の報道官は『断固反対だ』と表明、そのうえインドの外相も『われわれはそのような戦略的な枠組みは考えていない』と否定した。安倍首相はインドをうまく中国包囲網の枠組み、クアッド(日米豪印4か国)に参加させることに成功したが、根回しなくアジア版NATOを掲げた石破首相は最初でつまずいたわけです。
そのあたりも外交センスのなさが表われている」(同前)
石破外交はマイナスからのスタートになったと見ているのだ。