警察庁の発表によれば、今年発生した特殊詐欺の被害総額は9月末時点で411億円にのぼり、前年同時期に比べ100億円上回った。連日「闇バイト」が世間を騒がせるなか、実行役を募る犯行グループの“求人手口”に、新たな動きが出始めている。犯行グループが「普通の主婦」を仲間に引き込む巧妙な手口とは──。【前後編の後編】
募集情報に《手続き不要》《秘密厳守》と書いてある投稿の狙い
闇バイトに足を踏み入れるきっかけとして最も多いのはSNSだ。
警察庁の発表によると、2023年に摘発された特殊詐欺の実行役のうち、4割以上がSNSに投稿された闇バイト募集情報を通じての加担だった。そのほとんどが「高収入」をうたい、「ホワイト案件」「上場企業の仕事」などの嘘の誘い文句が並んでいた。主婦を狙った募集情報には、より彼女たちに響く文言が追加されている。東京未来大学教授で犯罪心理学者の出口保行さんが指摘する。
「募集情報に《手続き不要》と記されている投稿が目に付きます。これは育児や家事で忙しい主婦の日常を見越した文言の可能性があります。応募後に書面を交わすなどの面倒な手続きがなく、手軽に応募できるハードルの低さを印象づける狙いがあります。実際には個人情報のやりとりなどが発生しますが、まずは入り口のハードルを下げる思惑があるのではないでしょうか。
また《秘密厳守》という文言は、夫や家族に内緒で小遣い稼ぎをしたい人に魅力的に映ります。犯行グループは主婦心理をうまく利用しているように感じます」
「運ぶだけ」「受け取るだけ」といった言葉で簡単な仕事だと印象づけ、闇バイトに誘導する投稿も目立つ。
最近はSNSだけでなく、求人情報サイトに怪しい募集が掲載されていたケースもある。働きたい時間に好きなだけ働けることをウリに、利用者を増やしている求人サービス「タイミー」は、11月8日にXで《怪しいと感じた求人内容があったら(アプリ内の)通報ボタンでお知らせしてください》と注意を呼びかけた。
きっかけは、前日に掲載された《深夜の散歩が好きな方必見!夜道で猫を探すバイト》との求人情報だとみられている。この求人に対し、「猫」は高級車などを指す隠語で、実際は強盗に入る裕福な家を探す闇バイトなのではと指摘する声が相次いでいた。真相は定かではないが、「タイミー」は同求人を削除した。
「不適切な求人だったことに違いないでしょう。怪しい求人が掲載されたということは、闇バイトの募集が紛れ込む恐れも充分にあると思います。少し前は《#闇バイト》のように露骨に募集していましたが、最近は隠語が使われるケースが増えています」(石原さん)