現実と制度のミスマッチ
長く介護・看護の現場を見てきた全国介護事業者連盟理事長の斉藤正行氏は、「今回の問題には、複数の論点が混在しているように感じられる」と話す。
「まず、PDハウスを含め問題が報じられた施設についての調査、実態解明は当然ながら必要です。そのうえで、利益を優先した悪質なケースと、難しい状況下で現実に対応しようとした事業者を分けて考えなくてはならないと思います」
斉藤氏によれば、難病や末期の患者への訪問看護・介護は、計画通りに行なうのが難しいという。
「1日に1~2回の訪問で済むこともあれば、5回、10回と訪問しなければケアしきれないケースもある。そうしたなかで、介護や看護の計画は各患者さんに相応しいものを作らなければならない。きちんとアセスメントした結果、細かいケア内容は違うものの、ほとんどの入居者に1回30分、1日3回の複数人での訪問が必要、という計画になることはあり得る。
一方、業界の関係者にヒアリングすると、正しいアセスメントなしに入居者に一律の看護計画を立てて利益を最大化するところもあると聞く。必要のない人にまで過剰な看護計画を押し付けたり、看護計画以下のサービスしか提供しないところは、チェックのメスが入るべきでしょう」(斉藤氏)
取材を通じて、難病や末期の患者に対応するうえで、「1日3回」「1回30分」といった基準が現実にマッチしない実態も見えてきた。斉藤氏が言う。
「ポイントは、現状の訪問看護の診療報酬の仕組みがホスピス型住宅という形態を想定していないところです。在宅訪問を前提に作られた仕組みだから、『1回30分』といった設定になる。在宅なら家族らと患者の状況などをやり取りするから、30分より短い訪問になることは考えにくい。入居者を難病や末期の患者に限ったホスピス型住宅のための診療報酬制度がないなか、現状の制度に当てはめようとして無理が生じているとも言えます」
所管する厚生労働省の保険局医療課を取材すると、「不正の可能性を指摘する報道は把握している」として、こう続けた。
「報道を受けて10月22日に、都道府県の民生主管部などに向け、訪問看護の提供に関する方針について事務連絡のかたちで注意喚起しました」
同書面では、利用者の個別状況を踏まえずに一律に訪問看護の日数等を定めるといったやり方が認められないことに留意するよう呼び掛けている。違反する事業所への罰則や規制強化を検討しているのかを問うと、「今後の調査によるが現状でそうした動きはない」と述べるに留めた。前出の斉藤氏は言う。
「すでに多くの人が在宅型ホスピスで看取りを含めたケアを受けている。規制を強化するのは簡単かもしれませんが、ケアを受けている人たちをどうするのか、という問題は残ることになります」
介護・看護の現場、そして何より利用者に望まれる解決策が必要だ。
【プロフィール】
末並俊司(すえなみ・しゅんじ)/ジャーナリスト。1968年福岡県生まれ。日本大学芸術学部卒。テレビ番組制作会社勤務を経てライターに。介護・福祉分野を軸に取材・執筆を続ける。『マイホーム山谷』(小学館)で第28回小学館ノンフィクション大賞を受賞。
※週刊ポスト2024年11月29日号