自民党が「少数与党」に転落した衆院選と、共和党候補のドナルド・トランプ氏が圧勝したアメリカ大統領選の結果から、何が読み取れるのだろうか。金融とグローバリゼーションを題材にした新作『エアー3.0』を上梓した小説家・榎本憲男氏は、選挙の焦点が「経済」だったことがはっきりわかったという。日米の選挙結果について榎本氏が考察する。
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先の衆院選で、戦う前から「政治と金」の問題を取り沙汰されていた自民党は惨敗し、第二次石破政権は少数与党として再スタートを切ることを余儀なくされた。一方、アメリカでは、スキャンダラスな疑惑にまみれたドナルド・トランプ氏が民主党候補のカマラ・ハリス氏に圧勝、次期アメリカ大統領に就任することが決まった。
面白いのは、このふたつの選挙の後、コメンテーターらが似たような台詞を口にしたことだ。衆院選では、立憲民主党が勝利したのではなく、自民党が自滅したのだ、と語り、アメリカ大統領選では、トランプが勝ったのではなく、リベラルが敗北したのだ、と総括する者が多かった。ともに、勝つべき側が、失策して負けたと強調したいようだ。
では、失策とはなんだろうか? 自民党の場合は上に述べたように「政治と金」だと説明されがちである。「政治と金」が敗因ならば、敗戦の責任は石破茂首相にはない(この件に関して、石破氏は潔白だ)。しかし、この理解はまちがっていると思う。衆院選での惨敗の原因は「政治とカネ」ではない。石破茂という政治家に突きつけられた「ノー」だと捉えるべきなのだ。その点、アメリカのほうが民主党の惨敗に対する意見が鮮明だった。
日米ともにマスコミは、「バイデンおろし」の後でハリス副大統領が民主党候補として登場したときには、旋風だの接戦だの、有利とまで騒ぎ立てた。そして、若さ、女性、黒人というリベラルな要素をストロングポイントとして紹介した。さらに面白いのは、テイラー・スウィフト、ビヨンセ、レオナルド・ディカプリオなど多くのセレブ達がハリス支持に名乗りをあげたさいに、これらをマスコミは折に触れて報道した。彼ら/彼女らの人気によって、選挙の風向きが変わるかのようなニュアンスがそこには感じられた。
しかし民主党は負けた。惨敗である。この敗北について、その原因を鋭く指摘する声が民主党内から上がった。2016年と2020年のアメリカ大統領選で民主党から予備選に立候補し、ヒラリー・クリントン氏やバイデン氏を「エスタブリッシュメント(既得権益層)」と批判して、若者を中心に指示を集めたバーニー・サンダース氏である。選挙結果の大勢が明らかになった11月7日、彼はXにて、「労働者を見捨てた民主党が、労働者に見捨てられたのは当然だ」とコメントした。