中学受験に“参戦”した場合、小学校4年生から6年生までの3年間の塾費用と、中高6年間の学費などでかかる費用は、「公立中→高校受験」ルートの3〜4倍にあたる約1000万円にもなることがわかった(第1回記事参照)。しかし、私立中高一貫校への進学が、それだけのコストと労力に見合う十分な価値をもたらすのなら、多少無理をしてでもやる意味があるはずだ。シリーズ「“中学受験神話”に騙されるな」、フリーライターの清水典之氏が、受験情報の専門家らに話を聞き、中学受験の“コストパフォーマンス”について検証。世の中ではあまり知られていない大学附属校の現実についてもレポートする。【第2回】
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「東大の合格者数ランキングの上位を占めるのは、灘や開成、麻布、桜蔭、筑駒などで、私立・国立の中高一貫校が圧倒的に強く、公立で10位以内に入るのは日比谷くらいです。もし我が子の学力がずば抜けて優秀で、本人もやる気なら、中学受験で御三家やそれに準ずる難関校を目指し、東大合格を狙うというのは全然ありで、コスト度外視で取り組むという親御さんもいると思います。
しかし、日本各地の旧帝大(京大、東北大、北海道大、大阪大、名古屋大、九州大)に目を転じると、合格者数上位校は軒並み公立進学高校で、京大も過半数が公立高校出身者で占められています。本人の持って生まれた才能と努力次第ですが、『公立中→高校受験』ルートでは行けない大学というのはありません」
そう語るのは、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)著者で、Xアカウント「じゅそうけん」で10万8000人のフォロワーをもつ受験総合研究所(じゅそうけん)の伊藤滉一郎氏だ。日本全体で見れば、私立中に通う生徒は8%で、92%は公立中に通っているのだから、中高一貫校出身の生徒で大学の席が埋められることはないという。
しかし、中高一貫校には優れた教育カリキュラムや教師陣、学力優秀な生徒が集まって刺激し合う環境があるといわれている。中学受験ルートの方が「公立中→高校受験」ルートよりも、偏差値の高い大学に入れる可能性が高まるのではないか。
「受験業界には、『中学受験ルートに進むと、高校受験ルートに比べて偏差値2〜3上の大学に進学できる』という説があり、私の実感としても違和感はありません。ですから、偏差値を2〜3上げるためのコストとして、塾代や学費などで約1000万円かかることをどう捉えるかという問題になります。
もちろん、『教育方針が素晴らしい』『カリキュラムが優れている』などの理由で学校を選び、コストのことなど考えないという姿勢を否定するつもりはありませんし、コスパで判断するのは邪道なのかもしれませんが、中学受験ルートはコスパが悪いと思います」(伊藤氏)
コミックの『ドラゴン桜』(三田紀房・作、講談社)には、「人生を変えたければ東大に行け」というフレーズが出てくる。確かに、東大に入れば人生が変わりそうなイメージがあるが、それ以外の大学で、偏差値2〜3上の大学に入れたとして、人生が変わるほどのインパクトがあるのかどうか。そのために1000万円のコストをかけるのはどうかとなると、判断の分かれるところだろう。次ページ以降では、GMARCHへの大学進学を考えた場合の中学受験のコスパについて具体的に検証する。