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中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

「35歳転職限界説」は昔の話… 社内からの厳しい目線に耐えられず転職していく50代社員の悲哀

定年退職間近の人がつくづく羨ましい

 彼らの退職の決断は、「50代でも転職ができるようになった時代」が後押ししたものだと思います。20年前だったら「あと10年間、のんびり仕事をして少しでも貯金を増やそう。58歳ぐらいで早期退職に応募し、多めの退職金をもらうのもいいかな」といったライフプランもあったでしょう。それが今や40代でも、社内からの「転職してみたらいかがですか……」的なプレッシャーに晒されることになります。

 フリーランスの立場である私だって、いつまで仕事があるか分からない不安を抱えていますが、つくづく羨ましいのが現在定年退職間近の人とそれよりも年上の人々です。先日、地元(佐賀県唐津市)の行きつけの屋台で飲んでいたら、見たことのない男性2人組が入ってきました。30分ほどすると女将がやってきて「アンタと喋りたいと言っとるけんあっちへ行きんしゃい」と言います。

 東京から会社の同期2人でやってきたようで、私がいつもこの店にいることを知っており、もしかしたらいるかも……、ということで来店したようです。話は妙に盛り上がり、この後はスナックでカラオケをし、翌朝は9時からラーメン屋で飲みました。この2人はエンジニアでともにもうすぐ65歳で定年を迎えます。仲良し同期で福岡→佐賀→長崎という旅行をしているそうで、「これから何をしようかと悩んでいるんですよ」と嬉しそうに言う。

 この2人は社内からの厳しい目を感じることなく定年間近までエンジニアとして勤め上げたわけで、表情には満足感がありました。正直、少子高齢化・円安・物価高などで日本は今後ますます苦しくなっていくでしょう。そんな中、エンジニアとしてのスキルがあれば、定年後も仕事の選択肢は多いハズ。

 翻って、我々団塊ジュニア世代は、この2人のように同じ会社に定年まで勤めあげられない人も増えてくるでしょう。会社にいてもポストは限られるし、現場仕事なら若い人のほうが優先される。50代でも転職が可能な時代は、追い出す方も「自分の力でなんとかしてね」と言いやすいもの。そうした意味で、かつての「35歳転職限界説」の時代は社会も余裕があったし、幸せな時代だったのかな、と感じたのでした。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。

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