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ビジネス

米国の「対中半導体封じ込め策」が中国のイノベーションを加速させる皮肉 6年前からの対中強攻策もすでに効果は逓減

SMICの技術水準がTSMCを上回る可能性も

 もっとも、中国の弱点ははっきりしている。中芯国際(SMIC)を中心に半導体メーカーの強化を加速すること、ドラスティックな変化をもたらす可能性として、半導体の根本的な設計構造や、新素材に関するブレークスルーを目指した研究を加速させることなど、国家戦略は立てやすい。

 SMICについて、2013年12月期年報をみると、趙海軍と台湾出身の梁孟松の2人がCEOとなっているが、梁孟松CEOがメモリ、ロジック半導体の開発責任者を務めている。

 梁孟松CEOはカリフォルニア大学バークレー校電機エンジニアリング・コンピューターサイエンス科で博士号を取得、AMDでエンジニアを務めた後、1992年に台湾に戻りTSMCに入社、エンジニアとして高密度配線技術の開発で大きな成果を上げた人物だ。しかし、TSMCから冷遇されたことで2006年に退社、研究チームを連れて半導体チップ部門主席エンジニアとしてサムスン電子に入社、TSMCよりも半年早く14nm半導体の量産化に成功、アップル、クアルコムなどから大量の受注を獲得した。ただ、この際、TSMCから競業避止義務違反で訴えられている。

 その後、2017年10月にSMICがCEO待遇でヘッドハンティングした経緯がある。1952年生まれと高齢なのが気になるところだが、今後、SMICの技術水準が短期間でTSMCを上回る可能性がありそうだ。

 半導体産業の発展には多額の設備投資資金が必要となるため、サプライチェーンは発展の過程で最適な形で米国、欧州、日本、台湾、韓国、中国に分散して形成された。それを中国だけ無理に切り離そうとすれば、各国も損失を被る。また、中国は半導体製造装置にしても半導体にしても、世界最大の需要先だ。米国は6年以上かけて対中強硬策を打ち出しながら中国ハイテク企業に大した影響を与えられなかったのがこれまでの結果だ。逆境がイノベーションを加速させかねないといった面もある。米国の対中封じ込め政策は効果が小さいばかりか、逆効果とさえなりかねない。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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