釣り人の間では「食べない魚」というのが通説
続いてはボラです。先日、鮮魚店でボラの真子(卵)を買って自宅でカラスミを作ったのですが、これがすこぶるウマい。正直、店で買ったもの、飲食店で提供されたものよりもウマい。そこで、実際ボラを釣りに行ったのですが、足場が悪く、さらに底に石がゴロゴロしているため、なかなか釣れない。釣れたのは2匹とも雄だったので残念ながらカラスミは作れず。
しかし、家に帰って3枚おろしにし、刺身と漬けにしてみたらこれがウマい。正直タイかスズキか、といった味がするんですよ。釣れたらすぐに頭を落とし、血を流して鱗と内臓を取ってしまう。これで臭みはなくなります。まぁ、外洋で釣ったのでもともと臭みはなさそうですが。ボラについては、河口の排水のあたりで群れを作り、身がクサい、という言われ方をし、真子を取られたらそのまま捨てられがちです。そしてメスの個体の方が少ないため、釣り人の間では「食べない魚」というのが通説。さらに、巨大な鱗と巨大な目が不気味がられています。
日本の各所ではボラがスーパーで売られていますし、銀座の寿司店「味川」ではボラの寿司を握っていた記録が残っている(1991年発売『ベストオブすし』文藝春秋社・参照)。私は酢飯の上にネギとボラの漬け、サーモンの刺身、刻みのりとゴマを乗せた丼を作りました。かつてJAS規格が今ほど厳格ではなかった時代、ボラを鯛と偽って売っていた業者もいた、という話も納得でした。イノシシとボラについては、このように捌き方が重要です。
最後にこれまた釣り人に不人気の食材を。ヒイラギというスズキ目の小魚ですが、これは背びれと腹びれが剣山のように鋭く針から外す時にケガをすることがある。表面がぬめぬめのため、触ると気持ち悪い。しかも、キスを狙っているのに毎度釣れるのはこいつ、ということで釣り人はボンボン捨てていきます。しかし、この魚、ムニエルにするとウマいです。塩で洗えばぬめりはなくなりますので、頭と内臓を落として小麦粉をつけてバターとニンニクでソテーし、最後に醤油をたらす。絶品の完成です。
刺身でもウマいのですが、さすがに体が小さすぎて労の割に得られる身は少ないです。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。