派手な動きをするマーケットと、実物経済の乖離をどう解釈するか──。経済学者の水野和夫氏は、実体のある「リアルエコノミー」と実体のない「シンボルエコノミー」に分けて考えることで、いまの世界経済のあり方を読み解こうとしている。
水野氏の新刊『シンボルエコノミー 日本経済を侵食する幻想』(祥伝社新書)によると、「リアルエコノミーの世界で、日本は逸早くゼロ金利に到達し、近代の次の社会を構築するチャンスを得たのですが、シンボルエコノミーの世界に巻き込まれ、翻弄されています」という。いったいどういうことか。水野氏の著書『シンボルエコノミー』より、一部抜粋して紹介する。
帝国の特権
ご存じのように、米国は世界第1位の経済大国です。そして、米国民はおおむね豊かさを享受しているように見受けられます。これが正しいか、他国と比較するために作成したのが図表1です。
まず、人口と生活水準の関係を見るために、横軸に各国の人口(2022年)を、縦軸に1人当たり実質GDP(2022年)を取ります(図表1)。対象国は50カ国です。結果は、人口が少ないほど飛躍的に1人当たり実質GDP(生活水準)は高くなります。
多くの国の生活水準は、人口の大小で7割強説明できることになります(図表1の傾向線A、相関係数[r]が0.715)。さらに英仏独伊日本、そして中国が人口と生活水準との関係において、他国と比べて人口比で見ると倍以上豊かな生活をしていることが確認できます(図表1の傾向線B)。また、米国は傾向線Bでも説明がつかないほど超越した存在になっていることがわかります。
米国の人口は3.3億人ですが、1人当たりの実質所得は、図表1の傾向線Aで決まる所得水準の5.00倍にもなっています。ドイツ2.51倍、中国2.45倍、日本2.24倍、英国2.03倍、フランス2.02倍、イタリア1.76倍です。なぜ米国が他の国と比べて5倍もの豊かな生活が実現できているのでしょうか。
それは、米国が基軸通貨国であり、世界の情報とお金を蒐集する力が群を抜いているからです。英仏は18~19世紀の植民地支配の遺産を享受しているからだと考えることができます。日独は敗戦後、消費支出を抑制し(今楽しむことを我慢し)、将来の生産力を高める将来財(迂回生産財)に資源を振り向けてきたからです。傾向線Bで表される国は、言わば帝国の特権および我慢の成果を享受していると言えます。