世界食糧農業機関(以下、FAO)が発表した「2024年世界漁業・養殖業白書」によれば、2022年に世界の魚介類養殖生産量が初めて天然魚の捕獲量を上回った。同白書によると、2022年の世界漁業・養殖生産量2億2320万トンのうち養殖生産量は年1億3090万トンと、ほぼ半量を占める。一方で、日本人にとっては「魚介類の半数が養殖」という数値はまだまだピンと来ないのではないだろうか。
“世界のデータと日本の実情”のカラクリについて、『魚ビジネス』の著書であり、おいしい魚の専門家であるながさき一生氏が解説する。
世界と日本で大きく異なる「養殖の質」
近年、世界的に魚食ニーズが増加傾向にある。FAOの「2024年世界漁業・養殖業白書」によれば、世界の漁獲類生産量が年平均10%の伸長率であるのに対して人口の増加や食生活の変化に伴う消費量は年12%ずつ増加している。しかし、世界的な天然の漁獲量は限界に達しており、1980年代から約9000万トンで横ばい状態が続いている。
魚食をする人が増えている一方で、捕獲量は頭打ちとなると、そのニーズを満たすために養殖という選択肢が浮上する。世界的に、藻類を除いた魚介類の生産量は9440万トン。FAOの推定値では、2024年の魚介類養殖生産量は1億トンを突破すると予想されるほど、今後まだまだ養殖業界の伸長は続きそうだ。
一方、日本に目を向けると、魚食ニーズは減少している。水産庁によれば、日本の1人1年当たりの食用魚介類の消費量は2001年度の40.2㎏をピークに減少傾向にあり、2022年度は22.0㎏と、この20年ほどで約半減しているのだ。
あわせて、日本の養殖生産量は世界に比べるとその比率は低い。農林水産省によると、2023年の漁業・養殖業生産量は372万4300トンで、そのうち海面養殖業の収穫量は84万9000トンと全体の約22.7%に留まっている。生産量の約50%が養殖という世界の数字からは格段に低い割合だが、ながさき氏は「その内訳が全然違う」と言う。
「世界の養殖生産量のうち、中国が7538万トンで約59.5%を占めていて、かつ中国は淡水魚の養殖が多い。たとえば、食用のコイ・ウグイなどです。それらは様々な途上国に輸出され、食されています。さらには、世界の養殖生産量で次に多いティラピアも主に淡水で養殖される魚です。
一方、日本の養殖魚は、そのほとんどがブリやマダイといった海水魚になります。さらに、養殖可能な魚の種類は圧倒的に多い。まんべんなく多種多様な魚を養殖できる、というのが日本の養殖事情です」(ながさき氏、以下「」内同)