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ビジネス
魚ビジネス最前線

【世界の魚介類の半数が養殖】魚食ブームを支える「養殖ビジネス」の最前線 「海水魚を養殖できる」日本の強みと過熱する「陸上養殖」の課題

近年盛んな“陸上養殖”の課題とは

 日本で魚食ニーズが減っているなら、そこまで養殖に注力せずともよさそうなものだが、昨今は海の魚を陸上で養殖する『陸上養殖』が注目されており、水産庁によると2022年時点での事業者は120を超え、10年足らずで倍以上に増加している。この背景には一体何があるのか。

「いま、陸上養殖は投資が盛んなフェーズになっていて、資金調達も活発です。陸上養殖は、人工的に魚が育つ環境を陸上で再現するもので、海水魚を含む様々な魚を養殖することができます。しかし現時点では、多額の初期投資が必要となり、ランニングコストもかかるため、基本的にクエやチョウザメといった単価の高い魚が主となりやすい状況です。

 メリットとしては、陸上の閉鎖的な空間で養殖することで寄生虫の侵入を防ぐことができます。そのため、天然魚では寄生虫が原因で生食を避けられがちなサバなどの魚も陸上養殖の対象となりやすいです」

 急成長の「陸上養殖」は今後、ビジネスとして成功するのだろうか。その過熱ぶりに、ながさき氏は、「冷静に捉えた方が良い」と言う。

「上手くいくかどうかは、今後の技術開発や市場動向次第というのが実際のところではないでしょうか。現状のままだと、莫大な費用が掛かるわりに、採算が取れず、一大産業に育つには、まだまだ課題があると思います。

 例えば、天然や既存の養殖に頼らない新技術として、細胞培養によってつくられる『培養魚肉』があります。この培養魚肉に関しては、コストダウンしていくための技術やその進捗をアピールする企業が複数社見受けられます。しかし、陸上養殖はそのような成果を示している企業がまだ少ない。もちろん実現できれば良いとは思いますが、過熱化する状況に対しては、ビジネスが回っていく道筋が見えるか、課題が何で今後どう解決していくのかを冷静に見つめる必要があると思います」

 一口に“養殖”といっても、国や魚種によって様々な事情がある。世界中で急速に増加する“魚食ニーズ”への対策として、今後の養殖事業に期待したい。

ながさき一生/1984年、新潟県糸魚川市生まれ。株式会社さかなプロダクション代表取締役、東京海洋大学非常勤講師

ながさき一生/1984年、新潟県糸魚川市生まれ。株式会社さかなプロダクション代表取締役、東京海洋大学非常勤講師

【プロフィール】
ながさき一生/1984年、新潟県糸魚川市生まれ。株式会社さかなプロダクション代表取締役、東京海洋大学非常勤講師。漁師の家庭で家業を手伝いながら18年間を送る。2007年、東京海洋大学を卒業後、築地市場の卸売会社で働いた後、同大学院で修士取得。2006年からは魚好きのコミュニティ「さかなの会」を主宰。漁業ドラマ『ファーストペンギン!』では監修も務める。著書に『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。

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