なぜ車掌が廃止されたのか
いっぽう、現在は冒頭で述べた通り、一部の路線でワンマン運転が実施されており、車掌の乗務が廃止されています。
これは、1人の運転士が、車掌の役割を兼ねることが可能になったからです。その背景には、従来車掌が担っていた仕事の多くが自動化・簡素化されたことが関係しています。
また、先述した通り、東京メトロは、副都心線や有楽町線で、10両編成という長い列車のワンマン運転を実施しています。これらの路線では、全駅にホームドアを設置して、ホームでの安全確保を容易にしただけでなく、自動運転を導入して運転士の負担を減らしています。
車掌を減らすのは、乗務員全体の人数を減らすためです。そのおもな目的としては、鉄道経営の合理化や、人手不足への対応、乗務員運用の簡素化が挙げられます。ここで言う「乗務員運用」は、各列車に乗務する乗務員のやりくりすることです。この作業は、労働条件に関係するゆえに、車両のやりくりよりも制約が多く、むずかしいです。
なお、現在国内の一部の鉄道路線では、乗務員が乗らない無人運転や、鉄道車両に運転免許(動力車操縦者運転免許)を持たない乗務員が列車の先頭部に乗るドライバレス運転が実施されています。これらについては、別の回でご紹介します。
【プロフィール】
川辺謙一(かわべ・けんいち)/交通技術ライター。1970年生まれ。東北大学工学部卒、東北大学大学院工学研究科修了。化学メーカーの工場・研究所勤務をへて独立。技術系出身の経歴と、絵や図を描く技能を生かし、高度化した技術を一般向けにわかりやすく翻訳・解説。著書多数。「川辺謙一ウェブサイト」も随時更新。