「仲間とワイワイ」的な演出もリスクが高い?
ただ、ビール会社だって、もう分かっているのですよ。酒飲みは度が過ぎると大変だ、ということについては。だから、破滅的で酒乱イメージの強いタレントをCMキャラに起用することはない。
その意味で、吉沢さんレベルであれば節度は守ってくれると思っていたが、生粋の呑兵衛は、なまじっか飲めるものだから、歯止めが効かなくなることも。今回の件で、ビール会社は「お酒が好きです」を公言する芸能人をCMキャラに起用することのあやうさを痛感したのではないでしょうか。
かつて、国際ジャーナリスト・落合信彦氏がスーパードライのCMに出演し、同商品は大ヒットしましたが、あのCMシリーズについては好感度重視というよりは、「プロの仕事人として仕事を完遂した後にスーパードライをゴクゴクと飲むとサイコー!」といったメッセージを伝えるものでした。
当時のスーパードライは落合さんをはじめとして硬派な中年男性が出演し、「とにかくウマそうに見える!」CMを作り、大ヒットしました。でも、もはやこの手法は通用しないかも。アルコールのCMに求められるキャラは、「節度ある飲み方をして、その日の夜をホッと過ごす穏やかなキャラ」になったといえましょう。「DRY CRYSTAL」という度数3.5%のマイルドなビールですら、ここまでの事態になったのですから。いずれにしても吉沢さんの降板は、アルコールCMに大きな一石を投じる形となりました。
また、今回のCMもそうですが、昨今「仲間とワイワイ」的な演出で多くのタレントが出演するアルコールCMが増えていますが、これもリスクを伴います。何しろ、出演者が複数名いるとそれだけ同様のリスクが高まるからです。だからこそ、これからアルコールCMのキャラは、「ハメをはずさないであろう大御所の60代以上」といったキャスティングが無難になっていくかもしれません。若い世代に完璧な節度を求めるのは難しいことです。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。