お酒を飲んで堤防決壊…笑えない武勇伝
「まままま、とりあえず一杯。お正月くらいは朝から飲まないと。はいはいはい、クーッと飲んじゃって」
お正月は朝から酒を飲むものと決めている人の口調はみんな同じでね。日頃は気難しい人も、このときばかりは人が変わったように楽しそうなんだわ。こたつ・おせち・箱根駅伝・いつの間にか爆睡。起きてトイレに行ってまた飲む。
実は私、これを30代半ばに着物を着て友人宅でやったことがある。気がついたときは夕方になっていて、着物の裾を腰まで上げてあぐらをかいてたの。「ぜひ来て」と呼んでくれたその家のご主人はとっくに潰れて寝室で寝ているというし、同行の友達は帰ったと、その家の女主人の冷たい声といったらない。着慣れない着物で体を締め付けて日本酒を冷やでグイグイやったらこんなことになると、そのときは大反省したわよ。
それ以来、朝飲みはしていないけれど、昼からガブ飲みは何回かやった。夜のお酒は一日の憂さ晴らしで健康的だけど、昼酒、それも2杯、3杯と杯を重ねるとただの酒ではなくなる。言っちゃえば、背徳の味がする。世の中、どうでもいい。明日なんか来なくていいと気が大きくなるからか、シラフだったら絶対にかかわらなかった男とピッタリくっついてしまい、後々ものすごく面倒なことになった。
なんてことを“アラコキ(古希)女”が言うと「武勇伝?」と笑われるのがオチだけど、笑えないこともある。それは舌禍。人はみんな“これを言っちゃオシマイ”ということを抱えて人づきあいをしているけど、お酒を飲むとそれを止める力が弱くなるんだね。堤防決壊。
40代の昔、ある店主から「あんたは、アレもコレもみんな言ってしまう」と言われたの。酒を飲んで何を言ったかは思い出せないけど、私を恐ろしいものを見るような店主の目つきは忘れられるものではない。
そんなこんなで、私は飲まない人の仮面をかぶるようになったけれど、そうなると勝手なもので、酔っ払いの言うこと、なすことがいちいち気になるんだわ。「酒の席のことだから大目に見て」なんて甘ったれるのもいい加減にしろっ!と、自分の過去は高く高く棚に上げる。「よく言うよ」と、飲む人から陰口を叩かれてもいいよ。
酒飲みが楽しく飲める期間は短くて、そこでやめないとロクなことはない。これだけのことを知るのに67年もかかっちゃった。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2025年1月30日号