ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
「デジタル=悪」ではない
そもそも年齢による規制は非常に難しいし、間違いである。オーストラリアは16歳未満のSNS利用を禁止するというが、16歳以上なら正しい判断ができるのか? そんなことはあり得ない。現に、日本でも成人している若者がフィッシング詐欺や強盗殺人の闇バイトに手を染めているし、社会人の世界も、いじめやハラスメントだらけである。
つまり、年齢は関係ないのである。だから政府がやるべきことはSNS利用の禁止・規制ではなく、正しい判断力を持った人間を育てることに尽きるのだ。そのための努力を、根気強く続けていくしかない。
今は、スマホに限らずパソコンやタブレットなどを活用したデジタル教育が普及・拡大している。その一方でそれらのデジタル機器を使った教育が子供たちに及ぼす“負の影響”も報じられるようになった。もちろん健康を害するような長時間使用などは制限すべきだが、デジタルだからNGという議論は短絡すぎる。
21世紀の教育で最も重要なのは「とにかくやってみる」ことだ。英語で言えば、ナイキのスローガン「Just Do It」、日本語なら、サントリーのモットー「やってみなはれ」である。
すなわち、教科書や教材が紙かデジタルかは関係なく、何事にも果敢にトライしなければならないのだ。そして、その結果として成果を上げれば「できる(英語で言えばable)」という評価を得られるのだ。
その分野は何でもかまわないが、日本人はスポーツ、音楽、アニメ、漫画、ゲーム、料理など文部科学省教育の埒外の「見える」「聞こえる」「触れる」「味わえる」といった領域で大いに能力を発揮している。したがって、サイバー分野も実際にやらせて子供たちの「できる」を増やしていくのが今後の教育の在り方だと思う。
言い換えれば、親や教師は子供たちの個性に応じて「何をやらせるか」「その能力をどう伸ばしていくか」を考えればよいだけの話であり、教科書や教材が紙かデジタルかなどということはどうでもよいのだ。
子供からスマホやパソコンを取り上げるのではなく、それらを使いこなしながら正しい判断力を持った大人に育てる―それができない国は、21世紀のAI・スマホ革命=「第4の波」の中で衰亡していくのである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『新版 第4の波』(小学館親書)など著書多数。
※週刊ポスト2025年1月31日号
『新版 第4の波』(小学館親書)