米国の鉄鋼労働者とやり合った日鉄OBの述懐
ゴンカルベス氏の発言を日本のメディアは排外主義のあらわれと受け止め、「名前も言いたくありません。日本そのものを公の場で貶めたもの」(『報道ステーション』の大越健介キャスター)などと切り捨てた。だが、こうした正義の観点から論じていると、このブラジル人経営者が利用しようとしている「アメリカ人労働者の心理」という、本質的な障壁の存在を見逃すことにはなりはしないか。
そんな疑問に答えるように、「あのおっさん(ゴンカルベス氏のこと)の言うことはめちゃくちゃやけど、半分、気分は分かるんよ」と口を開いたのは、70代のある日鉄OBの技術者だった。彼は1980年代に日鉄が米国のインランドスチールという中堅鉄鋼企業と合弁会社を始めた際の経験を語ってくれた。
「技能を学びに向こうから30人ぐらいのアメリカ人労働者がやってきた。学びに来ているはずやのに、彼らは“日本に製鉄を教えたんはアメリカだ”“しかも日本は元はといえば戦争の敵国やないか”という態度で、ぜんぜん話を聞いてくれへん」
体の大きさはこっちが上だ、腕っぷしはこっちが上だとラチがあかない。それなら腕相撲で勝負しようとなったと、元技術者は続けた。
「両方の腕の後ろに焼いた鉄鍋を置いての真剣勝負や。それで俺が4~5人に勝ったまではよかったが、こんどはテキーラの飲み合い勝負だと言われ、これはあかんかった。帰り道で記憶が飛んだ(笑)。翌日、アメリカ人が出勤してこない理由を問い詰められこっぴどく叱られたけれど、それでようやく操業指導に入ることができたわけ」
約40年前の経験談だが、ゴンカルベス氏の会見での滅茶苦茶な言動と通底するものを感じさせるエピソードだ。