たとえば、ブランド品の選択において、日本人は好みであるということ以上に微細な差異に価値を見出す。同じブランドであっても、色やデザインの僅かな違いにまでこだわり、それが「高級品を持つだけでなく、自分のセンスを反映させている」という自己表現を可能にしている。「モノ消費」から「コト消費」への進化が進む中、こうした「微妙な差異」の追求はさらに洗練されている。
加えて、インスタグラムやTikTokといったSNSの普及がこの傾向を加速させている。現代では、高価なモノそのものよりも「どのようなストーリーがその背景にあるのか」「他者との差異をどのように際立たせているのか」が特に重視されるようになっており、消費行動の新たな価値基準となりつつあるのである。
「さりげないマウント」は日本独自の価値
このような「さりげないマウント」を可能にする洗練された消費文化は、欧米にはない日本独自の価値と言えるだろう。
日本が「マウント先進国」として世界に発信すべきは欧米的な露骨な見せびらかしではなく、こうした「さりげなさ」を重視しつつも自らのセンスや価値観を巧みにアピールするスタイルである。これは日本特有の美意識と深く結びつき、他国の消費文化とは一線を画す独自性を際立たせている。
少子高齢化による国内市場の縮小は避けられない現実である。しかし、日本独自の価値基準である「マウント消費」を世界に輸出することで、新たな経済成長モデルを提示できるポテンシャルは十分にある。
「マウント消費」は、体験や物語、さらにその演出方法に重点を置いており、次世代の経済を動かすエンジンとなり得る。日本が「マウント先進国」として、他国に先駆けた消費体験を提案し、世界の消費行動をリードする未来は、もはや夢物語ではない。
それは日本経済の次なる飛躍を支える確かな基盤となるのである。
※勝木健太・著『「マウント消費」の経済学』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
勝木健太(かつき・けんた)/1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティングおよび監査法人トーマツを経て、経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたって国内大手消費財メーカー向けに新規事業・デジタルマーケティング関連プロジェクトに参画した後、2019年6月に株式会社And Technologiesを創業。2021年12月に株式会社みらいワークス(東証グロース:6563)に会社売却(M&A)し、執行役員・リード獲得DX事業部 部長に就任。2年間の任期満了後、退任。執筆協力実績として『未来市場 2019-2028』(日経BP社)『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社)、企画・プロデュース実績として『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)がある。