日本の経済成長が停滞している要因の一つに個人消費の低下があるとされている。そうしたなか、最新刊『「マウント消費」の経済学』の著者で文筆家の勝木健太氏は、「日本の新たなトレンドである『マウント消費』(=単にモノやサービスを購入する行為にとどまらず、それを通じて「他者よりも優れている」と感じられる優越感を手に入れるための消費行動のこと)が、日本経済の次なる飛躍を支える基盤となる」と語る。その真意について解説する(以下、『「マウント消費」の経済学』より抜粋・再構成)。
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人口減少が加速度的に進む日本にとって、「経済成長をどのようにして維持するか」という問いは避けて通れない課題である。
従来の経済理論では、「効率化」や「生産性向上」といった解答が一般的に挙げられるが、これらは抽象的で、実感を伴う具体的な解決策としての説得力にやや欠けている。そのような状況下で、これからの成長戦略を考える上で注目すべき新概念が「マウント消費」なのだ。
人口減少という厳しい局面においても、日本は消費文化の進化において先駆者であり続けてきた。戦後の高度経済成長期には物質的な豊かさを追求する「モノ消費」、バブル崩壊後には体験価値を求める「コト消費」、そしてSNSの普及とともに「マウント消費」が次なる潮流として台頭しつつある。
この進化のプロセスを振り返ると、日本の消費文化は他国に先駆けたトレンドを形成し、進化させてきたとも捉えられる。
特に「マウント消費」に関しては、ブランド品のステータス性や体験を通じた自己表現が深く根付いており、この特性を効果的に活用することで、日本は世界に冠たる「マウント先進国」として今までにない経済モデルを世界に対して提示することができる。
日本が「マウント消費」を育みやすい背景には、地理的および文化的な要因がある。島国としての地理的閉鎖性や文化的同質性が外部からの影響を受けにくい環境を形成し、独自の価値基準を育んできた。
日本人特有の「人と同じであること」を重視しつつも、「他者と僅かに異なる自分」を表現したいという矛盾する欲求が「さりげないマウント」という繊細で独特な消費行動を生み出している。これこそが、日本ならではの「マウント消費文化」の形成を支える重要な基盤となっているのだ。