酒で失敗した芸能人にも上から目線
健康目的で禁酒した人ならまだいいんです。そうではなく厄介なのは、セクハラ、パワハラ、店内での嘔吐、粗雑な振る舞い、突然のケンカなど、酒で失敗した過去がある人。そんな人が、「酒なんてロクなものではない」と禁酒を決意。これ自体は立派なこと。そして禁酒を何年間も続けられるのも立派なことです。しかしながら、他人の飲酒に文句をつけられる言われはない。
どうも、禁酒に成功した人は、ひとつの“達成感”を覚えているように思えるんですよ。何か偉業を成し遂げた立派な人である、というような意識が出てきて、それが自信に繋がる。だから、「私は自らを律することができ、社会性のある立派な大人としての人生を歩んでいる。それに引き換え、酒をやめられないヤツは大人としての成熟も思慮も足りず、自制心がない!」なんて考える。
こうなると、ニュースに登場する事件の容疑者が、「酒を飲んで気が大きくなってつい痴漢をしてしまった」「酒を飲んでいて覚えていない」みたいな供述をしているのを見て、「そら見たことか!」となる。
さらには、酒で失敗した芸能人に対しても厳しく、その人が禁酒を宣言したら上から目線で「まぁ、この手の人は宣言だけはするけどどうせ隠れて飲むんだよね。意思弱そうだからね。誘惑だって多いだろうからさ」とも言う。
完全に「禁酒・断酒の有段者」のような気持ちになり、酒を飲む人を何段階も下層の人物であるかのような扱いをするようになる。呑兵衛をあたかも心配するかのようなふりはしつつ、実際は相手を見下すマウンティングをしているのが一部の禁酒成功者の姿なのではないか。本当に大きなお世話です。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。