ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
なぜ能登の復興が進まないのか
石破首相のオリジナリティは前述した防災庁くらいである。しかし、それとて具体的な組織運営体系は、まだ何も示されていない。
また、当初、石破首相は「防災省」と言っていたのに、いつの間にか内閣府の外局の「庁」に格下げとなった。将来は「省」への格上げを視野に入れているようだが、「庁」ではまともに機能しないだろう。
たとえば、国土交通省の外局の観光庁は腰を据えて取り組むキャリア官僚がいない。長官をはじめとする職員が輪番のように2年くらいで交代するから、専門家が育たないのである。防災庁も同じ轍を踏むことは火を見るより明らかだ。
現在、日本の防災・災害対応の仕組みは内閣府の防災担当部門(定員110人/2025年度から倍増)を中心に、災害種別によって役割を担う組織が異なる。
実働部隊も自衛隊(防衛省)、警察(警察庁、都道府県)、消防(消防庁、市町村)、災害派遣医療チーム(DMAT/厚生労働省)、緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE/国土交通省)など所管が分かれている。
内閣府防災担当の職員は他省からの出向が多く、やはり2~3年で戻るため、ノウハウが蓄積していないとされる。したがって、防災庁は既存組織との役割分担の整理が必要不可欠だが、一元化できなければ「屋上屋を架す」ことになる。
そもそも日本の災害対応は、復旧・復興を誰の責任でどこまでやるのかということが明文化されていない。世界有数の災害多発国なのに、その備えや復旧・復興は泥縄式でやっているのだ。
その典型は能登半島地震だろう。すでに発生から1年余りが過ぎたのに、復興は遅々として進んでいない。なぜか? 国、県、市町村の役割分担が、きちんと定義されていないからである。
このため、インフラが完全復旧していないにもかかわらず、自衛隊は昨年8月末で撤収した。水道・下水道の応急復旧支援を行なっていた東京都水道局も昨年5月末で活動を終了した。