集中力を高めるにはどのような点を意識すればよいか
仕事でも人生でも、私たちはさまざまな「選択」をしている。「唯一の正解」はないものの、自分で考えて、選択をしなければならない。そんな「未知の問題」に対して、「答えをつくり出す」のが「考えること」。その精度を上げるにはどうすればよいか。司法試験をはじめとする法律資格試験指導校「伊藤塾」を主宰し、40年以上にわたって、法律家や公務員を目指す人たちや法律の世界で活躍する人たちと関わってきた伊藤真さんの著書『考える練習』より一部抜粋、再構成して紹介する。
目標を「最小化」する
「考える」とはかなり広い概念だ。アイデアやひらめきを生み出すクリエイティブな世界での「考える」と、法律の世界に代表されるような論理的に「考える」とは少し違う。またぼうっと何かを考えているときの「考える」もまた違った種類のものだ。
その点、「集中力」というと、ある程度、限定できる。「ぼうっと集中する」という状態はおそらくないから、「集中力」とはゴールや結果、時間という要素を意識して考える頭の使い方をいうのである。
考える精度をあげるためには、「集中力」を鍛えるのがいい。「集中力」とは時間を意識すると同時に、ゴール、つまり結果を意識することだから、一点に絞り込んでいく作業だ。
それは、考える精度をあげるプロセスとひじょうに親和性が高い。よけいなものを捨てて、ゴールに集中していけば、間違いなく考える精度もあがっていくはずだ。
「考える練習」に必要な集中力について、いかに鍛えたらいいか。
そもそも集中するのが苦手だという人は、導き出さなければいけない結論やゴールが曖昧なことが多い。
「年収をあげたい」と漠然と考えていても、いい考えは浮かんでこない。考えの精度をあげるには、「年収をあげる」というゴールをもっと明確にする必要がある。
たとえば、5年後に1000万円の年収を超えたい、などというように具体的にゴールを設定する。そうすれば、今年は少なくとも何百万円までは年収をあげたほうがいいとか、今何をするべきかという目標ができる。その目標と現在の自分の状況とを照らしあわせて、ギャップを埋めるにはどうしたらいいのか、具体的に考える方向性が見えてくるだろう。
本業でその目標まで年収をあげていくのか、それが不可能なら副業を考えるのか。副業でいくなら、どんな可能性があるのかなど、分析して、切り分けていって、集中すべきテーマを最小化していくのだ。
もうひとつ例をあげよう。「一流大学に合格したい」と漠然と考えていてもなかなか成績はあがらない。まずは、たとえば自分のレベルで努力すれば合格できそうだと感じる大学の中から志望校を選び出す。
志望校が明確になったら、そこに合格するには自分がいまどれくらいの位置にあるのか分析し、どの科目のどの分野が苦手なのか、なぜ苦手なのかというように「問題を切り分けながら最小化していく」のである。そして最小化した問題に対して、一点に絞り込んで集中するのだ。
集中するのが苦手な人は、英語の成績が悪いから英語をやり、途中で数学も悪いから数学もやらなくては、と思ってしまう。そして数学をやりながら、そういえば物理もまだ手をつけていなかった、とふっとひらめいてそちらに行ってしまったりする。
自分はいま何をやらなければいけないのか、やるべき目標、ゴールを最小化して一点に絞りきっていないから、散漫になったり、ふらふらしてしまったりする。
このように、ゴールを明確にする、というのはつまりは「考える練習」なのである。