横綱推挙式に臨む豊昇龍
絹糸を職人が自分で染め、一針一針刺して立体感を出していく
下絵の図柄が決まれば優勝旗や校旗などを手掛ける刺繍店の職人の手に委ねられるのだが、可愛いイラストやキャラクターが登場するデザインにも制限がある。前出の協会関係者が言う。
「宝船や龍、鶴(手をつかない動物)のような縁起物、力士が好きな文字、出身校の校章や国旗、四股名を想像させるイラスト、スポンサーの企業ロゴやキャラクターが主なパターンですが、土俵は女人禁制のため女性の入ったデザインや実在の人物はNGです」
化粧まわしの生地は幅68センチ、長さ7メートルの1枚ものが使われる。これを縦に六つ折りにして腰へ三重に巻き、帯の端の1メートルを広いまま前に垂らし、その部分に図柄や文字が刺繍される。
「図柄を忠実に再現するため、京都から取り寄せた絹糸を納得するまで職人が自分で染め、それから20色以上の刺繍糸を使って文字や絵柄の独特の盛り上がりに応じて一針一針刺して立体感を持たせていきます。部分部分をバラバラに刺繍したあと貼り合わせて仕上げていくことで陰影をつける。文字が縫えるようになるまでには最低10年はかかります」(刺繍店オーナー)
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