ベンチャー企業サポートのために国家が大型ファンドを設立
イノベーションを生み出す仕組みにおいて米国と中国との一番大きな差は、ベンチャー企業をサポートする体制、特に成長に不可欠な資金を潤沢に供給する能力だと考えている。
グーグル、アマゾン、メタ、アップル、マイクロソフト、そしてイーロン・マスク氏が展開する事業グループなど、米国の大手ハイテク企業のキャッシュフロー、内部留保、金融市場を通じて調達可能な資金量は圧倒的だ。それに加え大規模かつ層の厚いベンチャーキャピタル群が存在する。彼らが、ハイリスクハイリターンのイノベーション投資に巨額を投じることで、優れたインキュベーションの環境が整っている。
中国においても、アリババ、テンセント、シャオミなど、事業展開意欲が強く、資金力のある企業が存在し、国内系ベンチャーキャピタルも育っている。多かれ少なかれ、欧米系金融機関の力を借りて、欧米系投資家が主体の市場において資金調達することで大きく発展した企業が中心となって、米国流資本主義を模倣、追従していると言えるが、米国と比べれば、その資金力はまだ小さい。
しかし、その差を埋めるために、国家が大きな支援、補填を行っている。中央、地方の政府予算に加え、銀行、保険、投資会社などを広く巻き込む形で産業投資ファンドを立ち上げ、戦略的新興産業の発展といった国家戦略に沿ったベンチャー企業への資金提供システムを作り上げている。
最近の例を示すと1月17日、AI企業への投資資金供給組織である国家AI産業投資基金が出資額600億6000万元(1兆2492億円、1元=20.8円)で設立された。出資者は国家IC産業投資基金(第三期)、国智投(上海)私募基金であり、前者は国家による大型ファンドで出資金額は3440億元(2024年5月設立、7兆1552億円)だ。ちなみに、第1期の出資規模は987億2000万元(2兆534億円)、第2期は2041億5000万元(4兆2463億円)であった。信用力のある国家基金を呼び水として民間から資金を集め、ベンチャー投資に資金注入するシステムが形成されている。
また、NASDAQにはかなわないが、株式市場においても、着実にイノベーション企業の上場が進んでいる。たとえば、本土株式関連情報ベンダーである同花順が集計するDeepSeek関連銘柄は107社(2月11日時点)あるが、この内、深セン創業板企業が41社、上海科創板企業が21社、北京証券取引所上場企業が2社ある。深セン創業板は2009年3月、上海科創板は2018年11月に設置されたボードであり、北京証券取引所は21年3月に設立された新興企業向け市場である。いずれも、上場基準がメインボードよりも大幅に緩和されており、イノベーション企業に対して資金調達の場を与えるために作られた市場である。