2月13日、ハワード・ラトニック商務長官が相互関税に関する発表を行なった。手前がトランプ大統領(AFP=時事通信フォト)
日本製鉄によるUSスチール買収計画や、米国に輸入される自動車関税の「25%前後」への引き上げなどをめぐり、トランプ大統領のディール術に改めて注目が集まっている。1990年代から2000年代に、経産省米州課長として日米鉄鋼摩擦の対応にあたった明星大学教授・細川昌彦氏は、日本側の交渉過程を見ると「トランプ2.0の本質」を見誤っていると指摘する(前後編の後編。前編から読む)。【聞き手/広野真嗣(ノンフィクション作家)】
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USスチールの買収問題がまさにそうですが、トランプ政権下でのディールでは“トランプ流の本質”を理解することがカギになります。その視点は今後、日本の自動車産業の競争力低下が懸念されている関税問題などほかの分野でも有効です。
トランプ2.0の政権の構造は、「3派連合」から成り立っています。具体的には、保護主義による“アメリカ第一”を旨とする「MAGA(=Make America Great Again)派」、ウォールストリートの経済人で減税や規制緩和を好む「親ビジネス派」、そして対中強硬路線を取り“力による平和”を唱える「外交タカ派」の3つです。
政権スタート前から私は、「トランプ大統領は3派を競わせ、気に入った政策をつまみ喰いする」と予想していましたが、発足1か月、その通りになっています。このため、原理的に、一貫した政策にはなりえないのです。
「ちぐはぐ」の典型例は関税政策です。2月1日にメキシコ・カナダからの輸入品への高率の関税導入を打ち出すと、発動日と予告されていた4日になって、3月まで1か月延期すると発表。また、その後、「鉄鋼・アルミ製品」の関税(9日)、貿易相手国と同水準まで関税を引き上げる「相互関税」を13日に、「自動車」関税を14日に打ち出し、自動車については「4月2日ごろ」から発動するとしています。
この振れ幅、発表日もばらばらの政策について、その内容から整合的に説明しようとする解説も見受けますが、第1期政権の動きを分析してきた私からみると的外れです。実は、水面下では政権内での綱引きが行われていて、その一部が表面に見えているに過ぎません。