日本製鉄の「USスチール買収計画」の着地点はどうなるか(写真/AFLO)
USスチール買収計画で、日本製鉄の会長兼CEO橋本英二氏(69)がトランプ大統領との直接交渉に乗り出す。ホワイトハウスに乗り込むうえで、どのような戦略でトランプ氏と対峙するのか。昨年11月に橋本氏に独占インタビューしたノンフィクション作家・広野真嗣氏がレポートする。
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2月7日(現地時間)の首脳会談で、日米は計画を「買収でなく大規模な投資」と玉虫色に再定義した。計画中止を回避したことは大きな成果だが、その「投資」の中身をめぐって、「トランプ・橋本会談」という次なる重大局面を迎える。
会談後には「誰も株式の過半数を取得できない」というトランプ発言も飛び出した。日鉄が「100%子会社化」を前提にUSスチールとの間で結んだ合併契約も修正を迫られそうな雲行きだ。
条件次第では、一枚岩だったUSスチールの株主がぐらついたり、あるいは金を出した日鉄が主導権を握れず思ったような成長戦略を描けなくなるリスクもある。難局に次ぐ難局に、10万人企業を率いる橋本氏の力量が問われる。ただ、橋本氏は2019年の社長就任以来、トップダウンの構造改革で日鉄を4300億円の大赤字からV字回復させた実績を持つ。
対するトランプ氏はプーチンや習近平といった「強い指導者」を有用な交渉相手と見る傾向が指摘されている。橋本氏は、こうした条件にかなう、危機だからこそ任された強い経営者の顔を持つ。経産省幹部が言う。
「橋本さんはハナから本音で歯に衣着せず物言う人。社長になって間もない頃、幹部級の役人が居並ぶ堅い会議の場で、“先輩たちは全く経営がダメだった”という旨のことを突然言い出して唖然としたことがあります」