石破茂首相が日本製鉄の計画について、USスチールの「買収」ではなく「投資」だと語ったトランプ大統領との首脳会談(時事通信フォト)
日本製鉄によるUSスチール買収計画をめぐり、日本製鉄の橋本英二会長兼CEO(69)が近く渡米し、トランプ大統領との直接交渉に臨むとみられている。バイデン前大統領が下した買収拒否の判断を覆すことができるのか。1990年代から2000年代に経産省米州課長として日米鉄鋼摩擦の対応にあたった明星大学教授・細川昌彦氏が、日本政府や日鉄側の“ディールの手腕”を読み解く(前後編の前編)。【聞き手/広野真嗣(ノンフィクション作家)】
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日本製鉄によるUSスチール買収計画をめぐって、トランプ大統領と日鉄の橋本英二会長兼CEOの直接交渉が近いと報じられていますが、トランプ流の本質に照らし、私は、大きな取引の序盤に過ぎないとみています。
2月7日の首脳会談で石破茂首相は「買収」を「投資」と印象論として言い換えました。確かにこの2つの言葉は対立概念ではなく、買収も投資の1つです。実際、トランプ大統領は「そうだな」と食いつきはしたが、バイデン前政権が下した計画中止の命令を撤回したわけではありません。
トランプ大統領は交渉に長けたビジネスマンですから、むしろそこから先は自分の都合のいいように「買収ではなく投資」と解釈して「誰も過半数はとらない」と相手の日本側を追い込んでいく。それがトランプ流でしょう。少数株主ならばよい、社債がどうだ、とさまざまな発言をしていますが、1つ1つの言葉に一喜一憂すべきではありません。
対処法を見出すにあたって参考にしたいのは、動画共有アプリ「TikTok」に対するトランプ大統領の姿勢です。
2期目の発足直後の先月、トランプ大統領は前政権時に超党派で成立した利用禁止法の執行を延期する大統領令に署名しました。しかし、遡れば5年前、TikTokを問題視し、米国事業の売却を命じたのは1期目のトランプ氏自身です。
裁判所が違憲と判断したことでいったん幕を閉じましたが、昨年の選挙期間中に発信ツールとして使い始めた第2幕で「好感を持っている」などと発言し、180度態度を翻した。一事が万事この調子で、選挙受けを狙ってダイナミックに豹変するのです。
その判断基準は、2026年の中間選挙に向けて有権者にアピールできるかに尽きる。理屈じゃないんです。日鉄も、1期目で見えたその流儀をよく踏まえたうえで対応しなければ計画の成功はおぼつかないでしょう。