左からピーター・ナバロ通商・製造業担当上級顧問とスコット・ベッセント財務長官(CNP=時事通信フォト)
関税政策をめぐるMAGA派vs親ビジネス派の“綱引き”
関税政策を主導しているのは、「MAGA派」の代表格、大統領顧問のピーター・ナバロ氏です。ナバロ氏は第1期政権でも要職を務めた経済学者で、2021年の連邦議会襲撃事件を調査する下院委員会の証言を拒否して禁固刑にも服した側近です。
大統領就任式の1月20日から、ナバロの過激な主張にしたがった関税政策が出てきてもおかしくはなかったのですが、そうはならなかった。ブレーキをかけたのは、「親ビジネス派」、ウォール街出身の財務長官スコット・ベッセント氏です。
ベッセント氏の持論は、数か月かけ現状を網羅的に調査したうえで、着実に関税を打ち出すべきだという考え方。この“押し返し”をおもしろく思わないナバロ氏が動いたのが、2月1日のメキシコ・カナダ関税でした。この日の記者ブリーフィングで、ナバロ氏が説明役を担っていたのです。逆に、数日後に出た「延期」は、ベッセント氏側の引き戻しと見るべきで、ようするに綱引きの産物なのです。
喧嘩上手のトランプ流も表現されています。メキシコ・カナダから始めるのは、最終的にアメリカの意向に逆らわないことがわかっているから。第1期でも、やはりメキシコ・カナダから始め、韓国、日本やEUが続きました。弱い相手から着手し、強い相手は後回しにするのです。
成果を急ぐトランプ氏はナバロ氏の策を採用したものの、ベッセント氏の制止にも耳を傾けたともいえます。これも、第1期で対中関税交渉が長引いたせいで株価が一時下がった反省を踏まえています。
繰り返しになりますが、トランプ大統領にとって最優先事項は「2026年の中間選挙に勝つこと」。負ければあとの2年はレームダックに陥る。バロメータでもある株価がダメージを受けたら元も子もないわけで、ベッセント氏という「株価のお目付け役」も重視しているのです。