USスチールのエドガー・トムソン製鉄所(米ペンシルベニア州/時事通信フォト)
官民の関係の在り方と「米国政治に対するアンテナ」
自動車業界は自らに降りかかる火の粉を払うのに必死でしょう。それは当然です。しかし産業全体を国益という観点で戦略的に対応することが大切です。それは本来、官僚が知恵を出し、政治家が判断すべきでしょう。官の在り方が問われているのではないでしょうか。
日鉄の米国政治に対するロビイングの在り方も気になります。長年、米国との間で貿易摩擦がなかったことも影響しているのかもしれません。
日鉄は2024年7月に元国務長官のポンペオ氏をアドバイザーに起用しましたが、1期の後半にトランプ氏との関係がぎくしゃくした人物。ポンペオ氏の起用を聞いてトランプ氏の神経を逆なでしたと言われています。民主党にも共和党にもコネがあるという見立てだそうですが、疑問を感じざるをえません。かつて日米鉄鋼摩擦の正念場だった1995年、私は通産省の担当官でしたが、日鉄の現地ロビイング体制はすぐれていました。
日鉄は鉄のユーザーである米自動車業界を回って味方に引き入れるよう奔走し、官民が協力しあって米当局の外堀を埋めていったのです。
翻って今回、日鉄が経産省に買収計画を伝えたのは、2023年12月の発表の直前だったと言われています。官民の間の関係がかつての時代から大きく変わったのでしょうか。USスチールの問題はそうした構造的な問題も投げかけているように思えてなりません。
(*さらに日本経済全体により広範な影響を与える可能性のある「関税問題」に関するトランプ政権の内幕に細川昌彦氏が迫ったインタビュー後編《自動車関税、日本製鉄のUSスチール買収問題で日本政府が見誤っている“トランプ2.0の内幕”を元経産官僚が解説 「3派連合」から成り立つ政権運営の実態とは》へ続く)
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現在、「マネーポストWEB」では、日本製鉄側の最大のキーマンである橋本会長のインタビュー記事4本を全文公開している。関連記事『【独占インタビュー】日本製鉄・橋本英二会長「USスチールの買収チャレンジは日鉄の社会的使命」、社内の賛否両論を押し切った決断の経緯』などで、海外に打って出て成長にチャレンジする必要性が語られている。