がんのリスクを高めるタバコ
大規模疫学調査によって判明したのは、男性のがん発症原因1位が喫煙であるということです。喫煙に起因するがんといえば肺がんをイメージしますが、それ以外にも多くのがんの発症に関与していることがわかっています。
関与が指摘され科学的根拠が十分とされるがんは、鼻腔・副鼻腔がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、すい臓がん、膀胱がんなどです。
このほか脳卒中、ニコチン依存症、歯周病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、虚血性心疾患、腹部大動脈瘤、末梢性動脈硬化、2型糖尿病の発症と進行、早産や低体重児、胎児発育不全などが、因果関係を判断するに十分な疾病です。
1970年代頃まで日本の成人男性は約90%がタバコを吸っていましたが、90年には55%に減少しました。その後、20年間追跡調査し、複数の研究をメタ解析したところ、非喫煙者のがん罹患リスクを1.0とすると、男性の場合「禁煙者(=元喫煙者)は1.3倍」「喫煙者は1.6倍」がんになりやすいという結果になりました。90年頃の日本の成人男性の喫煙事情(非喫煙者20%、禁煙者25%、喫煙者55%)と組み合わせて考えると、喫煙者の「喫煙によりがんに罹患した割合」はがん全体の23.5%、禁煙者は5.3%で、合計28.8%が「タバコを吸っていたためにがんに罹患した割合」となります。つまり、日本人男性の約30%が喫煙によってがんになったということです。
男性のリスク比「1.0」(非喫煙者のがん罹患リスク比)より上の部分の5.3%+23.5%=28.8%が「タバコを吸っていたために罹患した割合」
1.6倍と聞けばそれほど高くないと思うかもしれませんが、広島や長崎に投下された原子爆弾の爆心地から1km地点にいた被爆者の発がんリスクは、被爆していない人の1.5倍です。毎日タバコを20本吸っている人と、爆心地から1km地点にいた被爆者の発がんリスクはほぼ同じということです。いかに1.6倍が高い数値であるかをわかっていただけると思います。
なお、女性の場合は「喫煙していても本数が少ない」「喫煙開始時期が男性より遅い」などの理由で、タバコによるがんのリスクは1.3倍となっています。
このようにして日本では、毎年約13万人が、喫煙原因のがんや他の重篤な病気で命を落としているのです。