中国人向けSNSでの米転売の投稿(『小紅書』より)
「農業離れ」が加速してもおかしくない
Mさんは、「日本人の農業離れが加速するのでは」とため息を付く。「消費者の求めるレベルがどんどん上がり、ますます儲からなくなる」というのが、その理由だ。
「米は農水省の基準でランク付けされ、当然“おいしいお米”に人気が集まりますが、最近の消費者は農薬の使用や虫の混入などにどんどん敏感になっていて、疲弊する農家も多いですよ。たとえば米にわく“コクゾウムシ”なんてのがいますよね。農家が苦労して衛生管理を徹底していても、そもそも農業は自然の中で行われるので、こうした害虫がわく可能性をまったくのゼロにすることはできない。それなのに、農家にクレームがくることはしょっちゅうです。美味しい綺麗な米が低価格で食べられると考えるほうがおかしいんです」
人材確保のため新卒の初任給があがっているという報道もあるが、「農家だって収入をあげてくれないと誰もやらなくなりますよね」とMさんは話す。そして、「農家も頭を使う時代が来た」と続ける。
「農家は自分の農地でいくら儲かっているのかきちんと把握していない人も多く、税金を払うときに『今年はこれくらい儲けた』と初めて売り上げを確認する人がいるくらいです。だから米作りが赤字なのか黒字なのか、はっきりしないままなんとなく農業を続けている。それだと結局儲け分が正確にわからないし、“適正価格”もわからない。全ての農家がきちんと収支を計算すべきなんです」
かように農業の厳しさを訴えるMさんは、「自分の代で終わらせる」と決めている。
「私は東京の大学を出て、新卒時はサラリーマン。その後実家を継いで農家になりましたが、安定した給料をもらっていた時代が恋しいです。収入が安定しないのは農家の宿命ではありますが、これだけ儲からないのであれば、もはや米は高級品とか嗜好品になっていくしかないですよね」
美味しい米が安定して食べられるのは、流通はもとより裏で努力している農家がいることを忘れてはいけない。