高血圧患者に多い「隠れ心房細動」
高血圧の人に心房細動が多いことは知られていましたが、日本ではどれくらいの人が未診断のまま心房細動を罹患しているのかわかりませんでした。そこで私たちのグループは、全国にいる60歳以上の高血圧患者約4000人に血圧計と心電計が一体化した家庭用血圧計を送り、3か月間毎日、血圧と心電図を計ってもらうという大規模調査を行ないました。
この機器は血圧を測る際に両手で機器を持つだけで心電図が記録できるため、日常的に血圧を測る習慣のある高血圧患者にとって負担が少ないという特徴があります。
今回の大規模調査で使用された機器(心電計付き上腕式血圧計 HCR-7800T)。血圧測定中に本体を両手で触ると心電図の記録ができる(画像提供/オムロン)
私たちが行なった調査によって、データの有効性が確認された3820人のうち220人(約5.8%)に心房細動が検出されました。この調査結果は、高血圧をはじめとする生活習慣病を罹患している人には未治療の心房細動が潜んでいること、「隠れ心房細動」が多いことを示唆しています。高血圧と診断されたら、定期的な血圧検査とともに、心房細動のチェックを行なうことが重要になります。
高血圧と心房細動に関連性があるのは、高血圧が長期間にわたって血管や心臓に負担をかけるためです。血圧が高い状態が続くと、左心室(心臓の左側にある部屋)に圧がかかり、心房にも影響を与えます。その結果心房が拡張し、不規則な脈の原因となる異常な電気信号が発生しやすくなります。
1994年に実施された米国のフラミンガム研究によると、高血圧の人が心房細動を発症するリスクは通常の1.4~2.1倍とされています。これは心不全(6.1~17.5倍)や弁膜症(2.2~8.3倍)に比べると低いのですが、高血圧は患者数自体が多いことを考えると軽視できません。
また、高血圧は動脈硬化を進行させ、心臓病や脳卒中のリスクを高めます。心臓も血圧の負担に耐えようとして筋肉が厚くなり(心肥大)、その結果心臓の働きが悪くなり不整脈が起こりやすくなるという悪循環に陥ります。
さらに、高血圧と心房細動が同時にある場合、脳卒中のリスクが大きくなります。心房細動によって生じた血栓は脳梗塞を引き起こしますが、高血圧ではこのリスクが特に高いため、血液をサラサラにする抗凝固薬を使った治療が強く勧められます。