政策保有株がはらんでいるリスク
ところが、この“お付き合いの株”が次第に問題視されるようになりました。なぜなら、政策保有株は以下のようなリスクをはらんでいるからです。
【1】株価下落に伴う損失リスク
本業とは関係ない企業の株を大量に持っていると、その株価が下がったときに大きな損失が発生します。「本業は順調なのに、持っている株で大赤字」なんてことも起こりかねません。
【2】経営の監視が甘くなる
株を持ち合っている会社同士は、株主総会で経営陣に「NO」を言いにくい関係になります。すると、経営陣に対する監視(ガバナンス)が甘くなり、不正や経営の失敗を防ぎにくくなります。
【3】資本効率が悪化
政策保有株は「お金を効率よく使っていない」とも言われます。投資家は企業がどれだけ効率よく利益を生み出しているか(ROE=自己資本利益率)をチェックしますが、関係ない株を持っていると、その効率が悪く見えてしまいます。
政策保有株売却を後押しする流れ
このような不都合に加え、以下のような潮流も保有株売却を後押ししています。
【1】コーポレートガバナンス改革の流れ
2015年以降、日本では金融庁と東京証券取引所が取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」が導入されました。これによって、「経営の透明性を高めよう」「株主への説明責任を果たそう」という機運が高まりました。政策保有株を持っている理由やリスクを説明する責任が強まり、「じゃあ、売却しよう」と判断する企業が増えたのです。
【2】東証による資本効率向上の要請
2022年、東京証券取引所が市場区分を見直し、最上位の「プライム市場」に上場し続けるためには、資本効率の改善が求められるようになりました。特にROEが低い企業に対しては、改善策の説明を求めるなど、圧力が強まっています。
【3】機関投資家からのプレッシャー
年金基金やファンドといった機関投資家は、政策保有株について「株主の利益に反する」として厳しくチェックしています。「持ち合い株をやめないと投資しない」という姿勢を見せる機関投資家も増え、企業も無視できなくなっています。
実際、さまざまな大企業が政策保有株を減らしています。
たとえば、三井住友フィナンシャルグループは、過去に保有していた政策株を大幅に減らし、保有比率を数パーセント台にまで下げています。トヨタ自動車や日立製作所なども同様に、持ち合い株の削減を進めています。
金融庁の発表によると、政策保有株の時価総額は年々減少しており、2020年頃からその動きは加速しています。