大企業・金持ちを優遇してどうする
ほかにも石破政権の愚策は数え上げればきりがない。たとえば、2月に策定した「中堅企業成長ビジョン」。その中身は、全国に約9000社ある従業員数2000人以下の「中堅企業」を2030年に1万1000社に増やすことを目標とし、生産性の向上、M&A(合併・買収)、賃上げなどを促すために補助金や税制優遇で総額約1兆4000億円を支援するというものだ。
だが、企業にはそれぞれ目的がある。どんどん成長したい企業もあれば、成長しなくても長く続きたい企業もある。にもかかわらず、国が“上から目線”で「支援するから成長しろ」と言うのは余計なお世話だ。
賃上げも各企業が業績などによって判断することであり、国が号令をかけるのはおかしい。昨年度の「労働分配率(企業が生み出した付加価値に占める人件費の割合)」は大企業が34.7%、中小企業が66.2%だった。現状で大企業は賃上げ余力があるわけだが、国は大企業にも賃上げ税制優遇制度を設けている。これは全く理解できない。
また、日本は3年連続で実質賃金がマイナスだ。賃金の伸びが物価の上昇に追いついていないのである。しかも、2024年の「エンゲル係数(消費支出に占める食費の割合)」は28.3%で、1981年以来43年ぶりの高水準となった。つまり、国民は全体として貧乏になっているのだ。
国が生活困窮者を援助するのは当たり前である。だが、たとえば冒頭で指摘した所得制限のない高校授業料無償化は筋が通らない。義務教育ではない高校で金持ちを無償化の対象にする必要はなく、その分の予算を生活が苦しい人たちの支援に回すべきである。
本来、そういう政策を考えて国民に奉仕するのが役人の役割のはずだ。しかし、彼らは政治家の顔色をうかがいながら政策を立案し、しかも2年ごとに担当が代わるので継続性がない。だから、この国は30年以上も迷走しているのである。
ただ、石破政権の愚策は、貧乏だったはずの石破氏が首相になった途端、新人議員に商品券を配って進退を問われる、という笑い話で終わるのかもしれない。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2025-26』(プレジデント社)、『新版 第4の波』(小学館新書)など著書多数。
※週刊ポスト2025年4月11日号
『新版 第4の波』(小学館親書)